SaaSとは何か
ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)が登場したのはかなり前だが、1999年にSalesforce.comがCRMサービスを提供開始したことが、SaaSがメインストリームに進出する大きな節目になったという見方もある。しかし、他社のハードウェア上にあるソフトウェアをリモートで使用するという原理は、1950年代や1960年代の商業コンピューティングの初期に、LEOやIBMが提供していたビューローサービスやタイムシェアリングサービスにまでさかのぼる。
SaaSはクラウドコンピューティングの最も一般的な形態だ。ユーザーはブラウザとインターネット接続を使って、サービスプロバイダーのデータセンター内のサーバ上にホストされ管理されているアプリケーションにアクセスする。料金はサービスの使用量に応じて、あるいはサブスクリプション方式で支払うようになっており、オンプレミス型ソフトウェアのようにライセンスの購入費用やメンテナンス費用は発生しない。オンデマンド型ソフトウェアやホスト型アプリというのは、通常はSaaSのことを指している。
では、1990年代にASPが提供していたサービスと同じものなのか
全く同じというわけではない。アプリケーションサービスプロバイダー(ASP)は主に、他社製ソフトウェアを用意し、各ユーザー専用のインスタンスを実行していた。しかしSaaSでは、ユーザーがプロバイダー独自のソフトウェアのインスタンスを共有しつつ、データや設定情報は別になっている。これはマルチテナンシーとも言う。
どのくらい普及しているのか
どんな規模の組織であれ、公式か非公式かを問わず、SaaSを何かの形で使用していない組織はほとんどないだろう。SaaS市場全体の数字は輝かしいように思える。調査会社GartnerはSaaSへの支出額について、2012年の145億ドルから増加し、2015年には221億ドルに達すると試算している。
しかし、それでもまだソフトウェア業界全体のごく一部にすぎない。少し範囲を広げて見てみると、Gartnerの予測では、ERPアプリケーションへの支出額だけで2016年に329億ドルに達する見込みだという。ただし、ERPは金額ベースで最大のソフトウェア分野だ。
顧客がSaaSに魅力を感じるのはなぜか
SaaSの魅力は非常に明確だ。大まかに言えば、安さと柔軟性である。1つ目の魅力として、ハードウェアを購入しなくてもいいし、メンテナンスやアップグレードも必要ない。それだけでもかなりの費用を節約できる。
SaaSでは、ソフトウェアのライセンス料やメンテナンス費用がかからない。こうした費用は通常、1年間で、オンプレミス型ソフトウェアの購入価格の20%という、涙が出てくるほどの金額になる。また、ソフトウェアサポート作業の多くが簡略化されるか、全く必要なくなる。例えば、自社のマシンすべてにアップグレードが適用されるよう徹底する必要もない。
SaaSを利用することで災害やセキュリティ侵害からの保護が強化されると言われており、その点を評価している組織もある。中堅中小企業であれば、自社のデータやシステムが大規模な専門のプロバイダーのもとにあることに安心するかもしれない。しかし悲しいことに、歴史を振り返れば、その信頼が間違っている場合もあることが分かる。
ほかにも、ソフトウェアへの先行投資を大幅に抑えながら、より短期間でアプリケーションを稼働させられるというメリットがある。またソフトウェアはブラウザベースでアクセスするため、さまざまな種類のデバイスから利用することが可能だ。
費用やアクセスしやすさというメリットに加えて、柔軟性や、理論的にはスケーラビリティというメリットもある。「理論的には」と書いたのは、スケーラビリティは必ずしもすぐに実現するとは限らないからだ。そのため、結んだ契約にもよるが、ユーザーを追加することができるはずだし、ソフトウェアの使用が減った場合には支払い額を減らすこともできるかもしれない。