「IBMは1911年の電動タイプライター開発から100年にわたってテクノロジで世界をリードしてきた。今後もオープンテクノロジでイノベーションが加速させていく」――。
日本IBMの執行役員は先頃発表されたRISCプロセッサ「POWER8」を開発する背景として、同社が“オープンテクノロジ”にこだわり続けてきたためと説明した。
5月28日に日本IBMが開催したイベント「IT Infrastructure Matters 2014」は、データ活用とITインフラを支えるオープンプラットフォームがテーマ。国内ユーザー向けにPOWER8搭載サーバを公開するとともに、IBMが取り組むオープンテクノロジの最新動向を解説した。
日本IBM 代表取締役社長 Martin Jetter氏
ビッグデータやクラウドに最適化
オープニングに登場した日本IBM代表取締役社長のMartin Jetter氏はまず、ITとビジネスのトレンドについて「データ、クラウド、エンゲージメントという3つの大きな変革が起こっている」と指摘。ここで言うデータは、石油に変わる新たな天然資源ともいうべきもので、採掘、精製することで、企業に利益をもたらすものだ。
クラウドは、ハードウェアだけでなく、ビジネスプロセスやサービスも含めて提供できる究極のデリバリモデルとして不可欠なものだという。そして、3つめのエンゲージメントは、ソーシャルやモバイルを通して、企業は取引先や顧客などと深い関わりあうことを指すという。
そのうえでJetter氏は、「次世代のITインフラは、これら3つが起こす変革に対応していく必要がある。オープンテクノロジを採用したPOWER8はその中核となるものだ。われわれは今後とも、POWERとオープンテクノロジに積極的に投資していく。ユーザーの皆さんの前でそのことをコミットメントしたい」と強調した。
IBM Power Systems ゼネラルマネージャ Doug Balog氏
続いて、Power Systems担当ゼネラルマネージャを務めるDoug Balog氏が登壇。Balog氏は戦略やアーキテクチャ、オペレーション、技術開発、財務業績全般を含むPower Systems事業のすべてを統括し、米IBMの事業戦略チームの一員でもある。
「われわれは変革の只中にいる。その変革に対応するためにわれわれはPOWERプロセッサを再設計した。新しいPOWER8は、ビッグデータのために設計された業界初のプロセッサだ。新しいPower Systemsは、ハイブリッドクラウドと(IaaSの)SoftLayerを使って、従来型のワークロードと新しいワークロードを連携できる。テクノロジをオープンにし、その成果を取り入れるオープンプラットフォームを採用することも大きな特徴だ」(Balog氏)
ビッグデータについては、POWER8を搭載したサーバが、x86サーバと比較してスレッドの同時並行処理で4倍、メモリ帯域幅4倍、前版のPOWER7+と比較してI/O帯域幅2.4倍と大きく向上したことを説明した。これにより、アナリティクスからの知見獲得は、x86サーバと比較して82倍高速になったという。分析や演算、機械学習の「Watson」に代表されるコグニティブコンピューティングに必要なあらゆる種類のデータに対応した。その1つの例として、Balog氏は、“人工知能”のWatsonの基盤として利用しているPower Systemsを紹介した。
「2011年当時のWatsonは、90台のPower 750を使ったシングルユーザーシステムで、再学習に5日以上かかっていた。2013年には、ソフトウェアの改良などで1台のPower 750で240%の高速化、数千ユーザーに対応し、学習も1日以内でできるようになった。そして2014年に、POWER8を使ったSoftLayerを基盤としたことで、5倍の高速化、数百万ユーザーへの対応、幅広い業界のコーパスを使った連続した会話ができるようになった。学習も数時間で済む」(同氏)
クラウドへの対応では、新しいPower Systemsを使って使うことで、x86サーバと比較した場合にパフォーマンスが2倍になり、初期コストは58%となるなど高い経済性と信頼性が得られることを紹介した。Power SystemsはSoftLayerの基盤として使用し、OpenStackなどのオープンテクノロジを採用する。エンゲージメントを実現するためのハイブリッドクラウド基盤の構築にも適していることも強調した。
オープンテクノロジに注力するワケ
オープンテクノロジの取り組みとしては、2013年に設立したPOWERアーキテクチャに基づくオープンな開発環境を推進する団体「OpenPOWER Foundation」がある。すでに30社超のメンバーでエコシステムを構築しており、そこで得られた技術が製品に組み込まれるようになっている。その1つが「CAPI(Coherence Attach Processor Interface)」という、I/Oデバイスからプロセッサと同じメモリ空間に直接アクセスできるようにするテクノロジだ。
「CAPIは、OpenPOWER Foundationで実現したイノベーションの成果だ。GPUやフラッシュメモリ、ネットワーキング、FPGAなどのアクセラレータを簡単に取り付けることができ、パフォーマンスの向上、レイテンシーの改善、コスト低減を実現する」(同氏)
Power SystemsではLinux対応も強化した。LinuxのディストリビューターであるRed HatとNovellに加えて、新たにCanonicalと協業。Ubuntu OpenStackやオーケストレーションツール「Juju」を利用できるようにした。仮想化基盤「KVM」をPower Systemsに対応させた「PowerKVM」を提供し、POWER8がリトルエンディアンに対応したことで、x86サーバのLinuxアプリケーションをPower Systemsへ移行することも容易になった。