「The Cult of Mac」著者による、ジョニー・アイブ本レビュー

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2014-06-27 07:30

(編集部注:ZDNetブックレビューでは海外で話題の書籍をご紹介します。企業分析や自己啓発に役立つビジネス書をZDNetの海外記者が独自の視点で評価してゆきます。第1回目は2013年11月に出版され、話題となった「Jony Ive: The Genius Behind Apple's Greatest Products」をとりあげます。)

 「Jony Ive: The Genius Behind Apple's Greatest Products」(ジョニー・アイブ:アップルの偉大な製品群の背後の天才)は、微笑ましい私的な逸話から始まる。著者のLeander Kahney氏はある業界パーティーでIve氏と出会い、酒を飲みに行った。2人とも、母国から離れた米国のサンフランシスコで暮らす英国人だ。酒を何杯か飲んだ後、Kahney氏は時間に気づいて急いでその場を去るが、ノートPCが入った鞄をうっかり置き忘れてしまう。そして、それから何時間も経ってから、Kahney氏はバーで再びIve氏に出くわすことになる。驚くべきことにIve氏は自分のノートPCが入った鞄を持っていてくれた。Kahney氏はIve氏への感謝の印として短いコメントを求め、コメントを得ることに成功し、広報担当者を驚かせることになる。

 Jony Ive: The Genius Behind Apple
Jony Ive: The Genius Behind Apple's Greatest Products ● 著者:Leander Kahney ● 出版社:Portfolio Penguin ● 320ページ ● ISBN 978-0-241-00177-6 ● 14.99ポンド(ハードカバー) / 9.49ポンド(ePub電子書籍)

 この逸話を紹介したKahney氏の狙いは、Ive氏がどれほど親切で、地に足のついた人間なのかを示すことだ。不注意な読者は、本書ではKahney氏の個人的な体験に基づいて、Appleの最も重要なプロダクトデザイナーであるIve氏が描かれることをこの逸話が示唆している、と感じるかもしれないが、残念ながら、現実はそうではない。AppleはKahney氏が本書のためにインタビューすることを支援しなかったが、複数の職員が匿名で話をしてくれたと同氏は述べている。職員にはIve氏も含まれていたのかもしれないが、Kahneyは明言を避けている。

 結局のところ、Ive氏が若い頃の話を除けば、本書の大部分は、Appleについて過去に書かれたさまざまな書籍の焼き直しのように感じる。Appleは徹底的な秘密主義で知られるが、それにもかかわらず、おそらく歴史上で最も多くの記録が残されてきた企業だろう。Kahney氏自身も過去にAppleとSteve Jobs氏に関する書籍を2冊執筆している。Walter Isaacson氏がSteve Jobs氏の生涯を簡潔にまとめた伝記本も2011年に出版された(Kahney氏もこの書籍を引用している)。ほかにも、Steven Levy氏が執筆した2冊の書籍(「Mac」の歴史をまとめた1994年出版の「Insanely Great」と、「iPod」の誕生と発展について研究した2006年出版の「The Perfect Thing」)や、Appleの事業と文化に関するさまざまな側面をテーマにした多数の書籍がある。1990年代中頃にAppleの最高経営責任者(CEO)を500日務めたGil Amelio氏も、そのときの体験を題材にした書籍を出版している。

エセックスからクパチーノへ

 確かに、本書を読めば、偉大なデザイナーが生まれる環境について、いくつかの興味深い詳細を知ることができる。同氏は英国エセックス州チングフォードで、銀細工師兼デザイン講師の息子として生まれ、幼少の頃から手でいろいろなものを作ったり、デザインについて考えたりする方法を学んだ。芸術大学の学生だった頃から、Ive氏の才能は顕著で高く評価されていた。Appleに就職したのは25歳のときだ。当時、デザイン部門を統括していたRobert Brunner氏は以前よりIve氏を採用しようと試みていたが、3度目にしてようやく成功した。当初から、Ive氏はありふれた物体について見つめ直す傾向があった。芸術大学時代から支援してくれた企業や独立系の小規模なコンサルティング企業に勤務した後、Ive氏は1992年、遂にAppleにたどり着いた。それは、Jobs氏が復帰する5年前のことだった。1997年、Brunner氏の退社を受けて、Ive氏はデザイン部門の統括者に就任した(Brunner氏はその後、「Beats」ヘッドホンをデザインした。Beatsは先頃、Appleによって買収された)。

 しかし、そこから先、本書は製品開発の詳述が続く。「Newton」「iMac」「iBook」から「iPad」までの製品とJobs氏の死去が紹介されている。ユーザーによる交換が不可能なバッテリという現在の傾向を生み出した張本人が誰なのか知らない人は、本書を読めばそれが分かる。Kahney氏は本書の最後で、Tim Cook氏がCEOになった今、Ive氏(同氏のデザインは非常に大きな影響を与えたので、今ではメインストリームになっている)は自己と自分のアイデアを改革することができるだろうか、という質問を提示する。Kahney氏の予想は筆者や読者の皆さんの予想と大して変わらないように思える。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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