小田急電鉄では、Windows8.1タブレットを導入、活用を進めている。携帯電話網を通じて社内システムやクラウドサービスに接続、現場から直接情報を共有することで、鉄道輸送の安心安全と顧客満足度をさらに高めるのが目的という。日本マイクロソフトが6月20日に発表した。
鉄道業界では一般的に、列車無線と電話による音声通話、各列車の走行位置や遅れなどを示す“TID(Traffic Information Display)”といった専用システムを主な情報伝達手段としている。こうした手段を利用できるのは駅事務所や列車の乗務員室に限られる。
最近ではPCのメールも利用されているが、業務用端末として事務所に据え置かれているのが基本だ。そのため、例えば事故などが生じた際の情報共有には、口頭で伝えるか事務所に戻って端末を使う必要があった。
小田急では、モバイルデバイスにもTIDの情報を配信できる「WebTID」の存在を知り、機動性を高めるべくタブレット端末の導入検討を開始。2013年12月にWindows8.1タブレットとSaaS型の情報共有基盤「Office 365」の導入を決定した。
Windowsベースで構築されている既存業務システムとの親和性、ExcelやWordもそのまま使える上に作業状態を維持したままアプリケーション画面を切り替えられる操作性の高さ、既存システムと同様のユーザー認証できることやモバイルデバイス管理やマルウェア対策の集中管理が可能といった信頼性、の3点が大きな理由という。
決定から程なくして数台の端末でトライアルを開始した。WebTIDを試行するとともに、タブレットで撮影した写真や情報をSaaS型の「SharePoint Online」で共有する仕組みを構築、タブレットでメモ入力や報告書作成を行うアプリケーションを開発してきた。
この1月中旬には、11駅にタブレットを配備し、新たに構築した仕組みを事故対応訓練で利用。その結果をフィードバックすることでアプリケーションを改善し、5月から全駅展開を進めている。
これまで、現場の調査にはデジカメと報告用紙、ボイスレコーダーを持参していたが、タブレット1台で済むようになり、写真やメモ、録音データなどを持ち帰ることなく、現場から即座に共有できるようになった。こうした情報は運輸司令所や本社での判断に役立ち、事後のより的確な見通しを立てやすくなる。
WebTIDを使うことで、それぞれの現場から乗客への的確な情報提供も容易になると説明。現場でのデータは端末内に保存されているため、持ち帰った後に時系列で振り返られ、情報の整理や再利用も容易としている。データは将来的にIaaS/PaaS「Microsoft Azure」に保存することを検討している。
社内コミュニケーション手段としてSaaS型ユニファイドコミュニケーション基盤「Lync Online」を試行している。今は一部の役職に限定して導入しているが、多様な業務に活用できると考えているとし、数年後に全社展開することも視野に入れて取り組みを進めている。
小田急では今後、2020年の東京五輪に向けて増加が見込まれる海外からの乗客への対応にタブレットによる外国語での情報伝達、運賃検索システムや駅の券売機などの遠隔操作、係員の規則や規定集のオンライン提供など、タブレットのさまざまな活用を考えている。
小田急電鉄でのタブレット活用イメージ(マイクロソフト提供)