松岡功の一言もの申す

企業の事業継続対策は進んだか

松岡功

2014-07-02 11:30

 内閣府がこのほど公表した「平成26年版防災白書」から、企業の事業継続計画(BCP)と事業継続管理(BCM)への取り組み状況が明らかになった。東日本大震災から3年余り経過した中で、果たして企業の事業継続対策は進んでいるのか。

5割を超えた大企業のBCP策定率

 東日本大震災をきっかけに、企業の間ではリスクマネジメントの一環として、BCP/BCMに取り組む姿勢が強まった。今、その実態はどうなのか。

 内閣府の調査によると、平成25年度のBCP策定状況は、大企業では「策定済み」および「策定中」が7割強、中堅企業では同様の回答がおよそ4割と、いずれも前回調査(平成23年度)から着実に伸びていることが明らかになった(図1)。


図1:大企業と中堅企業のBCP策定状況(出典:内閣府「平成26年版防災白書」)

 この調査は、内閣府が平成19年度(2007年度)より隔年で行っているもので、今回は今年1~2月に調査票を郵送する方法で実施し、全国の2196社から回答を得たという。

 資本金10億円以上などの大企業の策定率は、平成25年度で53.6%と前回から7.8ポイント上昇し、今回初めて5割を超えた。また、資本金1億~10億円などの中堅企業の策定率は、前回から4.5ポイント増えて25.3%となった。

 一方、BCMの実施状況については、「経営会議での決定」「取締役会での決定」「担当役員に一任」「社長に一任」といった経営層の決定によって取り組んでいるところが、大企業で合計52%、中堅企業で同43.3%となった。その反面、大企業では3割弱、中堅企業では4割弱が「BCMには取り組んでいない」と回答している(図2)。


図2:BCMの実施状況(出典:内閣府「平成26年版防災白書」)

 また、BCMに関する教育・訓練は全体として7割強が実施しているが、BCMの点検・評価や是正・改善は全体で4割程度にとどまっていることが分かった。

早急の対応が求められるBCMへの取り組み

 政府のこれまでの取り組みとしては、平成16年(2004年)に中央防災会議の専門調査会においてBCPに関する指針の検討が必要とされ、平成17年(2005年)に内閣府で「事業継続ガイドライン」が策定された。

 また、国の防災基本計画においても、平成17年に「企業がBCPを策定するよう努めるべき」内容が盛り込まれ、平成20年(2008年)には「国および地方公共団体が策定支援に取り組むべき」内容が明確に規定され、地域防災計画においても重点を置くべき事項として位置付けられた。

 こうした取り組みの中、東日本大震災が発生し、改めて災害時における企業の事業継続の重要性が浮き彫りになり、さらにそれに資する平常時の活動として経営戦略に組み入れるべきBCMが重視されるようになった。

 そして直近では、平成26年(2014年)1月の防災基本計画の修正において、「企業はBCMの推進に努め、国および地方公共団体はBCMの支援に努めるべき」と規定。この3月に決定された首都直下地震緊急対策推進基本計画や南海トラフ地震防災対策推進基本計画などにおいて、BCP策定率の2020年までの目標として、大企業は100%に近づけ、中堅企業は50%以上を目指すこととした。

 さて、大企業および中堅企業のBCP策定率の現状について、順調に伸びているとみるか、伸び率が低いとみるかは意見の分かれるところだろう。筆者はまだ策定していない企業の取り組みスピードをもっと上げるべきだと考える。

 と同時に、早急の対応が求められるのはBCMへの取り組みである。大震災以降、政府も重視しているようだが、内閣府の今回の調査をみると「BCMには取り組んでいない」企業の割合がまだまだ大きい。

 BCMとは、BCPにおいて定められた対策や教育訓練を確実に実行、および評価し、BCPを継続的に改善し維持管理するための経営管理プロセスのことだ。つまり、事業継続に関するPDCAサイクルを通した継続的な活動そのものである。

 BCPの策定もさることながら、企業にとって本当に大事なのはBCM、すなわち事業継続のマネジメントへの真剣な取り組みである。改めてそのことを強調しておきたい。

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