「いままでの海外展開は、経営資源が海外拠点に分散したマルチナショナル企業ともいうべきものでした。これからのグローバル企業が目指すものは、本社も含めた各拠点同士がノウハウやナレッジを共有し、それをベースに地域内で価値を創造し、全拠点でコスト差を活用して最適化していく組織なのです」(小鹿氏)
マルチファンクショナル企業を一歩すすめ、コストや知識共有をグローバル規模で最適化したい。それが、今求められている「真のグローバル企業」だ。
「どこかの拠点で新しいナレッジが創出されると、それが他の地域に移転して最適化してゆく。どこかの拠点でローコスト要因や新しい市場が生まれれば、素早くコスト優位性を獲得してグローバルに最適化する。小鹿さんの提言された新しいグローバル企業像は、地域拠点が自律的でいながら全体が最適化してゆくという、いわば自律と規律を両立させるような組織像ですね。そして、このトレードオフこそ、今、日本の経営層を悩ませ続けている経営課題ということなのでしょう」(斉藤氏)
グローバル・ガバナンスで重要な3つのポイント
「はい。その相反する課題を解決するために大切なポイントは3つあると思います。1.プロトコル、2.カルチャー、3.明確なデータによるガバナンス です」
この3つについて、さらに詳しく小鹿氏に聞いてみた。
まずは「プロトコル」だ。プロトコルとは、仕事の方法、手順という意味だ。プロトコルをグローバル運用するためには標準化が必要だが、その際に重要なポイントがあるという。
「なぜプロトコルを標準化するのかをはっきりしないと、標準化の過程で各地域の個別事情が噴出してうまくいかない。まず、全体最適が部分最適よりも上位目標であることを、各地域の責任者に納得させた上で、具体的な数値目標を掲げることが大切です」
つまり、日本のやり方が一番優れているからこのプロトコルに倣えというのではなく、具体的な目標に合致するか否かを基準にプロトコルを標準化していくということだ。
次に「カルチャー」。これは、広い意味での“現地化”ということだ。例えば、グローバル人材の育成、現地生産拠点での仕事の進め方などでの留意点があるという。
「例えば、Samsungがグローバル人材に与える最初の課題は現地でのネットワーク作りです。1年くらいはその課題に集中させ、それからあらためて具体的なビジネス上の目標を与えるわけです。まず飛び込ませて、現地のカルチャーを学ばせてから、実際の仕事を身につけさせるということなんです」
最後に「明確なデータによるガバナンス」だ。
「ルールやプロセスを標準化してガバナンスを強化することも大切ですが、その際に大切なのが「データ」をベースにしたコミュニケーションです。商習慣や国民性などを超えるためには、確実な事実として数字をベースに議論する習慣をつけることが大切なんです」と小鹿氏は強調する。