地域別社員数、日本企業の今後
最後に、この調査から、やはり日本特有の数字が挙がった回答を紹介したい。すこしショッキングなデータかもしれない。
このグラフは、今後3~5年間の社員数の変化に関する質問の回答結果を分析したものだ。上が現在の組織、下がM&Aによる社員数の増減をあらわし、左が世界全体の回答結果、右が日本企業の回答結果をあらわしている。
社会が成熟した日本や西欧では社員削減意向が多く、特に日本企業においては「現組織に対する削減意向」が非常に多いことが見てとれる。少子高齢化による生産人口や市場規模の減少がその最大の理由だろう。日本企業がグローバル化を急ぐ理由もここにある。
「企業成長のためには、国外、特に新興国の市場機会をとらえなくてはいけないことは当然です。ただし、そのために国内に空洞化が起こり、日本の豊かさが失われるとわれわれは考えていません」と小鹿氏は語り、フィンランドの事例を取り上げた。
「フィンランドのNokiaは少し前まで携帯市場におけるトップブランドで、フィンランドGDPの3.2%を占めていました。ただし、フィンランド国内での売り上げはわずか1%に過ぎず、ほとんどは国外での売り上げです。そこで稼いだお金をもとに、Nokiaはフィンランド国内で大規模な研究開発投資を行ってきました。またNokiaの株主の26%はフィンランド人であり、彼らにも利益は還元されます。つまり、グローバルな展開をしながらも、国内で製品技術や生産技術に投資し、自国の経済に貢献することは可能なのです。日本においても、工作機械のファナック、化学製品のクラレ、空調のダイキンなど、Nokiaモデルをとっているグローバル企業が多くあらわれています」
高い技術力を持ちながら「課題先進国」と呼ばれる日本。その経験から創出された知識や技術をグローバルに移転させ、その地域の問題を解決する。それこそ日本企業に求められている真のグローバル化だろう。
「さらに、Nokiaの特筆すべき点は、2012年以降のリストラの際に、退職促進プログラムの一貫として社員に起業支援金(1社あたり最大10万ユーロ)を提供したことですね。Nokia自身は衰退の道をたどりましたが、それによって1000社を超える企業が創業され、次なるフィンランド経済の起爆剤となりました。昨年、ソフトバンクが買収したスーパーセルはその典型ですが、他にもゼン・ロボティクスやヨーラ、ロビオ・エンターテインメントなど、国際的に著名なベンチャーがいくつも生まれています。安易な規制や救済ではない、上質な創業を誘発するダイナミズムこそ、日本が学ぶべき最大のポイントといえるかもしれません」(斉藤氏)
斉藤氏が語るポイントは、すべての日本大企業、さらには日本という国家の戦略に通じるものだろう。日本は特許出願件数でも世界第3位に位置し、研究内容も次世代産業を拓く可能性を持つ技術が多い。Nokia型のグローバリゼーションに学び、より豊かな日本が生み出されることを期待したい。