AWSのプリンシパルソリューションアーキテクトであるYinal Ozkan氏の話には、そのニュアンスが顕著に表れていた。AWSのユースケースは、クラウド移行によるストレージやアナリティクスの負荷軽減からディザスタリカバリまで、多岐にわたる。例えば、サムスンの「Smart Hub」テレビソフトウェアはAWS上で稼働するが、決済はオンプレミスのインフラで処理される、とVogels氏は述べている。それはなぜか。サムスンの事業の多くはオンプレミスのインフラを使って決済処理をしていたため、移行が難しかったからだ。さらに、銀行は顧客対応の操作はクラウドで実行するが、決済は金融機関のデータセンターで実行される。
それでは、ハイブリッドデータセンターがパブリッククラウドの比重を高める動きは、どのようにして起こるのだろうか。これは徐々にしか進まない。Vogels氏によると、高性能コンピューティング(HPC)はクラウドが関わってくる重要な分野だという。石油やガス、エンターテインメントなどの業界の企業はHPCシステムに投資してきたが、オンプレミスのリソースは何カ月も先まで予約されている可能性がある。
Vogels氏は、「オンプレミスのHPCは非常に高価なので、常にフル稼働している」と述べ、HPCで処理しきれない作業はクラウドに移さなければならない、と付け加えた。多くの場合、外部のイベント(とそれらの分析に必要なコンピューティングリソース)によって、クラウドへの移行が促進される。
レガシーインフラストラクチャと技術的負債。AWSとAmazonはいずれも技術的負債(簡単に捨てられないレガシーインフラストラクチャ)を抱えているが、Vogels氏によると、重要なのは、ユーザーを閉じ込めないアーキテクチャを構築することだという。
Vogels氏によれば、現在稼働しているソフトウェアは2年後には不十分なものになるとAmazonは想定しているという。ソフトウェアは時間とともに進化していく能力を備えていなければならない。同氏は、「つまり、われわれは過去の世代の自社システムに閉じ込められているわけではない、ということだ。もちろん、われわれは技術的負債を抱えているが、大きな規模で自分たちのシステムを変更し、運用することができる。われわれは当社の顧客よりも有利な状況にいる」と述べた。
Amazonの環境がある程度ハイブリッドであることは、注目に値する。Amazonの小売事業はおおむねAWS上で運営されているが、製品データはオンプレミスで管理されている、とVogels氏は説明した。それらの製品情報は、このユースケースのために特別に設計されたハードウェア上で提供される。Vogels氏は、「われわれはそれをオンプレミスに残して、次世代バージョンをクラウド向けに開発している」と話した。
AWSは顧客の要望に基づいて、これまでのシステムを段階的に排除している。例えば、AWSは現在、第2世代のインスタンスタイプを提供しており、古いバージョンは需要の低下に伴って段階的に廃止されている。Vogels氏は、古いシステムは今後もほかの用途に利用されるとも述べている。オンプレミスHPCシステムの平均寿命は5~8年だが、研究者は2年が過ぎると不満を言う。なぜなら、2年が経過したシステムはもはや最新のプロセッサを搭載していないからだ。「われわれはそれらのHPCシステムを段階的に取り除いて一般的な用途に活用し、リフレッシュサイクルを早めることができる」(Vogels氏)
インフラストラクチャのサイクルに関して言えば、エンタープライズはインフラストラクチャをクラウドに移行させることより、アーキテクチャを再構築して将来も使い続けることを目指している、とVogels氏は述べた。
ビッグデータと「MapReduce」「Hadoop」。Googleは先頃、MapReduceは時代遅れになっており、大きな成功を収めることはできないだろう、と述べた。Vogels氏も同じ考えだ。
最終的に、「MapReduceは下の層に沈んでいくだろう」とVogels氏は述べている。HadoopおよびMapReduceのカスタムアナリティクスを使うことは、極めて重要だ。最終的に、MapReduceはビッグデータ処理の一部として使われるようになり、全体像となることはないだろう。Amazonの「Redshift」サービスが高い人気を得ている主な理由は、MapReduceでは不可能な高速かつシンプルなアナリティクスを提供できることだ、と同氏は述べた。MapReduceには大規模な開発者コミュニティーが存在し、今後もMapReduce向けのアプリケーションは大量に登場すると思われるが、結局のところ、MapReduceはビッグデータを取り巻く資産の1つにすぎない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。