三国大洋のスクラップブック

アップルのティム・クックCEOが目指すは「運動部のヘッドコーチ」 - (page 2)

三国大洋

2014-07-23 07:30

 ビジネス誌などで時々「impresario」――興行主、(舞台)監督――という言葉を見かける。Jobsのスタイルは、この「impresario」にぴったり当てはまるもので、その仕組みを使って行われていたのは「Jobsが主役まで務めるワンマンショー(“Steve Jobs on stage”)」――この仮説の当否は別にして――長い間、メディアとのインタビューをJobsが一手に引き受けていたことなどは、そんな仮説を支える傍証のひとつと思えるが――この仮説を前提にそれとの対比で考えていくと、Cookのそれは「スポーツチームの監督/ヘッドコーチ」ではないか…。そんな風に思うことがこの頃よくある。

 足かけ10年以上にわたってJobsを近くで見てきたCookが、Jobsという人間のさまざまな欠点に気付かなかったはずはない。また「天才の神殿」にまつられた感さえあるJobsの、誰にも真似できない部分に舌を巻き、それに対して敬意を覚えると同時に、「気まぐれ(mercurial)」などとよく形容されるリーダーを経営トップに戴くことから生じる組織の限界といったものをCookが意識していたとしても不思議はない。

 Jobs時代にうまくいったこと――「最高の製品を作る」も無論そのひとつか――を上手に受け継ぎつつ、その欠点を直していければ、自ずと「Appleはこれまで以上に素晴らしい会社(great company)になれる」「天才が引っ張る形のチームでは届かなかったところまで到達することができる」。もしかしたら、Cookがそんな風に考えていたのかもしれない。

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 「Steveの抜けた穴は5人の人間で埋めていこうと思っている(Beatsの買収もそれで説明がつく)」――。

 6月半ば出ていたNYTimes記事には、iPodや(red)プロジェクトなどでApple幹部と付き合いのあるBono(U2のボーカル)のコメントがある。CookがBonoにそう語ったらしい。この部分、原文は次のようになっている。

Mr. Cook is not saying “I'm here to replace him,” said Bono, who is a managing director and co-founder of the venture capital firm Elevation Partners. “He's saying, ‘I'll try to replace him with five people.’ It explains the acquisition of Beats.”

Tim Cook, Making Apple His Own--NYTimes

 この5人が具体的な人物を指すのか、それともJobsの中にあったさまざまな要素を指して「それを複数の人間で分担していく」と言っているのか…。何度か仮説めいたものを組み立てようとしてみたけれど、残念ながらしっくりとくるものは見つからない。それでも、たとえば次のような例はありえそうだと感じてもいる(正式な肩書き=担当の職務とは別の切り口である点に注意)。

  • Angela Ahrendts(「テイスト」=taste)
  • Jimmy Iovine & Dr. Dre.(ポップカルチャーに対する感度と影響力 )
  • Jony Ive(「創意工夫」=inventiveness)
  • Craig Federighi(technical chop, showman ship)
  • Tim Cook (Leadership)

 この割り振りだと、Cookの立場は「プレイングマネージャー(選手兼監督)」ということになってしまうが、筆者の頭の中には「Cookのヘッドコーチ姿」――バスケットボールならコートサイドに、あるいはフットボールならライン際に立って、選手に指示を出し、試合の展開を見守るCookのイメージが浮かんでいたりもする(その姿が妙にしっくりとくる気がしてならない)。

 Cookが6月のWWDCで、Craig Federighiを「主役」に据えていたこと、前記のNYTimesと一対になったインタビューでも自分の代わりにJony Iveに取材させていたこと、あるいは5月下旬にあったRe/codeのCodeカンファレンスにも今年はEddie Cueなど他の幹部を出させていた(結果的には、CueとIovineとが共演する形になった)ことなどを考えあわせると、「コート上でプレイするのは他の人間に任せて、自分はサイドラインに陣取る監督役に回る」という選択をCookがしたのではないか。そういう印象をなおさら強く感じている。

チームスポーツにおける「天才型リーダー」の限界

 ここで少々脱線する。

 脱線する理由は、リーダーシップに関する2つのスタイルについて考えるためで、ここではその2つを「先導型」と「後押し型」と呼ぶことにする。長い坂――東京で言えば、九段坂のようなところを重い荷物をたくさん積んだ大八車(台車)で登っていくといったイメージを思い浮かべながら読むと話がわかりやすいかもしれない。

 ご自分でチームスポーツをなさったことのある読者にはそれこそ釈迦に説法の話だが、団体競技では、チームが勝てなければ意味がない。どんなに優秀な選手が1人で頑張っても、立派な個人成績(stats)を残しても、チームが優勝できなければ選手の評価も上がらない(この辺りは一般の企業にも似た部分があるかと思う)。

 そうして――仕組みが異なる野球やサッカーのことはよくわからないが――バスケットボールの場合には「スーパースター選手が孤軍奮闘しても、なかなか優勝できない」というのがほぼ定説のようになっていて、実際にここ30年くらいはそれを裏付ける結果も出ている。

 そんな「チームが優勝して(=組織が目標を達成して)ナンボ」という世界で、いわゆる「歴史に残るスーパースター選手」が優勝するためにどういうアプローチを取ってきたかという部分に触れた面白い分析を最近目にした。

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