エンタープライズモバイルは企業変革の入口にすぎない
これまでに述べてきたように、スマートデバイスの導入は所詮ツールの導入ではあるが、その実は企業変革そのものであるケースも少なくない。筆者は、エンタープライズモバイルの導入を“POST デジタルの時代”と表現するが、これはもちろんデジタル技術を活用した次の世界という意味とそれによって変革されるべきことの意味を込めている。
- P:Process (業務プロセス)
- O:Organization(組織・制度)
- S:Share vision(ビジョン共有)
- T:Talent culture(会社の風土)
こうした企業変革のきっかけを担うには既述のとおり、組織横断的に取り組まなければ成功は難しい。
エンタープライズモバイルの導入とは企業そのものを「再設計」することであり、その中核を担う情報システム部門は、まさにアーキテクチャとしての手腕が試されているのである。
今後、ICTツールはどんどん高度化し加速するコンシューマライゼーションは、企業のシステム環境をこれまで以上に複雑化させていくだろう。こうした流れはもはや、逆戻りすることはない。つまり、POST デジタルの時代は同時に、IT事業者のビジネスモデルやIT部門の役割、あり方を大きく変革するものなのだ。今後こうしたIT関連部門は業務や制度を深く理解して戦略を語り、環境をデザインできなければならない時代になるだろう。
最高技術責任者(CTO)、最高デジタル責任者(CDO)、最高マーケティング責任者(CMO)など、さまざまにCxOという名前が生まれてきているが、これはまさにPOST デジタル時代を迎えた結果ではないだろうか。しかし、深化・細分化されるほどに、オーケストレーション(指揮する)人が必要であり、その役割はIT部門やIT事業者が担うべきではないかと考えている。
これをIT関係者の受難ととるか、またはチャンス到来ととるかは、各社各様であり、また企業やスキルをトランスフォーム(変革して実現)していくことは決して容易ではないと思うが、筆者は後者であると信じたい。
本シリーズは今回が最終回となるが、このシリーズが読者諸氏の今後の取組みの一助になれば、大変幸いである。
- 千葉 友範
- デロイト トーマツ コンサルティング マネージャー 大学院在籍中にIT系ベンチャー設立に参画を経て現在に至る。業務改革プロジェクトを中心に実施し、近年では、デジタルデバイスを活用したワークスタイルチェンジや販売力強化など、戦略策定から実行支援までプロジェクトを多数実施。「会社で使う タブレット・スマートフォン2013」など執筆多数。