ありがたいことに、テクノロジの変化について説明することは、歯を抜くのに比べれば、はるかに苦痛が少ない。たとえ当の体験が、歯を抜くという行為そのものに不快なほど近いものだとしても。筆者がそれを実感したのは、ワシントンDCにある新しい歯科診療所を訪ねようと考えたときだ。その歯科診療所に行ってみると、意外なことに、過去に訪れたことのある診療所を全て合わせたよりも多くのテクノロジに出会った。
さらに印象的だったのは、テクノロジがその診療所に溶け込んでいたことだ。この診療所でそれを「導入」したと示すために、わざとらしく取り付けてあるのでもなければ、近代化しようと努力して取り入れてはみたが、調和しておらず、効率化できていない、という状況でもなかった。筆者の財布は寂しくなり、歯はきれいになった。そしてテクノロジだけではなく、受付での見事なサービスと、歯科衛生士と歯科医の熟練した処置にも感銘を受けた。この記事では、筆者が出会ったテクノロジと、それが重要な理由をまとめた。
「iPad」での受付
まず歯科診療所に入って、受付係のところにいくと、オンラインの患者登録フォームに登録しているかどうか聞かれた。うっかりしていた。登録していないことを認めながら、自宅のキーボードから入力してこなかったことを悔やみ、紙の用紙に記入する覚悟を決めた。ところが、受付係は筆者に「iPad」を渡し、水もくれて、入力が終わったら知らせるように、と言った。5分後、入力が終わった。そしてデータはすでに診療所のシステムに登録されていた。
提供:Alex Howard
筆者は一般に、医療IT分野でのタブレットの使用については、ほかのテクノロジ分野と同様、懐疑的な立場をとるようにしている。2010年にスタンフォード大学は医学部の新入生全員にiPadを配布した。MedCity Newsによると、2012年時点で、米国の医学部の約4分の1がiPadを使用しているという。そして少なくとも、iPadが用意された1つのクラスでは、試験の点数が23%高かったという結果がある。
iPadの登場以前、タブレットを使用している医師や歯科医師は多くなかった。2012年のインタビューで、医師のAtul Gawande氏が筆者に思い出させてくれたように、それには正当な理由がある。
「正直なところ、紙よりも良い方法は見つかっていない。自分のiPadで画面を次々めくることはできるが、それは遅すぎるし、集中できないので、患者と話せなくなってしまう。画面上の画像をあれこれ引き出してきて、それを患者に見せられたら面白いが、診療の現場にそこまで溶け込んではいない」
医学部でiPadを使いこなすようになった若手医師たちは、それを自分たちの診療所や、全米の救急救命室で使い続けようとしている。2012年のインタビューで、Gawande氏もそれを認めていたが、警告もしている。
「私はiPadをあちこちで使うが、だからといって、すぐにクリニックの運営の一部になっているわけではない。自分のクリニックで実際に便利に使えるようにするには、かなり努力しなければならないだろう。例えば、X線写真と過去の病歴の間を行き来できるようにする必要がある。私は主にガン患者を診察しているので、X線写真から臨床検査の結果、ほかの医師が以前残したコメントまで、手元に用意する必要のある患者の記録は40ページ分になるだろう」