IBMは窮地を脱することができるのか--名コラムニストがIBMの危機を描いた1冊

Colin Barker (ZDNET.com) 翻訳校正: 藤本京子

2014-08-22 06:00

 Robert X Cringely氏はIT業界のことをお見通しだ。いや、ここでは主語を「彼ら」とすべきかもしれない。Cringelyという名は、InfoWorld誌に長年にわたって掲載されている「Notes from the Field」(「現場からのメモ」の意)というコラム上で使われているペンネームで、実際には複数のレポーターによって書かれているのだから。

 ただ、これまで常に複数の執筆者が存在していたわけではない。何年間にもわたり同コラムは、著名なITレポーターのひとりであるMark Stephens氏が執筆していたのだ。InfoWorld誌在籍中、Stephens氏は1992年に出版した影響力のあるIT関連著書「Accidental Empires: How the Boys of Silicon Valley Make Their Millions, Battle Foreign Competition and Still Can't Get a Date」(「予想外の帝国:シリコンバレーで金を儲け国際競争に立ち向かいつつも彼女はできなかった男たちの物語」の意)で一躍有名になった。これは、Charles H Ferguson氏が1999年に出版した「High Stakes, No Prisoners: A Winner's Guide to Greed Glory in the Internet Wars」(「いちかばちかの勝負に情けの必要なし:インターネット戦争で貪欲に栄光を勝ち得る方法」の意)と並び、1990年~2005年当時のシリコンバレー黄金時代を象徴した書籍とされている。

 Accidental Empiresは現在でも読む価値のある作品で、IT業界における有名人の多くがどのような道をたどったのかをわかりやすく描いている。Cringely/Stephens氏によると、短気な同氏は会社とケンカをしてフリーランスライター兼ブロガーとなり、「I, Cringely」という精力的なブログを執筆する一方で、IT関連のテレビ番組のプロデュースも手がけている。

果たしてIBMはどうなるのか


The Decline and Fall of IBM: End of an American Icon? ● 著者:Robert X Cringely ● 出版社:NeRDTV LLC ● 202ページ ● ISBN-10: 0990444422 ISBN-13: 978-0990444428 ● 6.48ポンド(ペーパーバック) / 1.99ポンド(Kindle版)

 今回Cringely氏が出版した新書は、「The Decline and Fall of IBM: End of an American Icon?」(「IBMの衰退と崩壊:アメリカを象徴する企業の最期?」の意)というものだ。同氏は、伝統的で保守的な出版社との契約が破綻したことから、この新書を自費出版している。このタイトルを見ると、Cringely氏は歴史上最も栄えた文明の1つであるローマ帝国と同じくくりでIT企業の絶滅を予期しているように思えるが、実際はそうではない。

 この書籍は、競争の激しいIT関連出版物というよりも、むしろCringely氏が好きでやっていることと捉えてよいだろう。同氏は、Accidental Empiresの中でIT革命をうまく皮肉っていたが、実はIBMが好きなのである。好きというより、愛してやまないと言っていい。

 今回の新書のテーマは主に2つだ。1つは、IBMの構造や初期の歴史について描くとともに、同社の過去30年間を詳細に評価すること。そしてもう1つは戦いへの呼びかけだ。つまり、現在のIBMの破綻した経営体制を一掃し、新たな体制で前進するよう呼びかけているのだ。

 なぜCringely氏はこのようなことをしているのだろうか。前書きにて触れている同氏が初めてIBMを訪問した際の話の中に、その答えとなるヒントが隠されている。当時Cringely氏には製品のアイデアがあり、IBMと契約することを考えた。そこで同氏は、オハイオ州の自宅近くのIBMオフィスでミーティングの約束を取り付ける。IBM側は同氏の話をしっかりと聞き、すでに同社がその分野をカバーしていることを丁寧に伝えたという。その上で、アイデアに関して話してくれたことに感謝の意を示し、新たなアイデアがあればまた来てほしいと伝えた。Cringely氏は当時8歳だったという。

 若きCringely少年にとって、このミーティングのインパクトは非常に大きかった。その後、同社の将来について意見を述べるためにこれだけの手間をかけているのだから、当時のインパクトの大きさも想像に難くない。Cringely氏にとって、自分の幼少期のIBMはあの頃のIBMで、今のIBMとは別なのだという。その今のIBMを、Cringely氏は好きではないとしている。方向性を失ったIBMに対し、Cringely氏はなぜそうなってしまったのか本書の冒頭で説明している。

 The Decline and Fall of IBMの内容の大半は、IBMに勤務する社員について書かれている。社員の多くは取材にとても協力的だったようで、時に懺悔するようだったという。読み進めると、本当に彼らは心からIBMが好きなのだということがわかってくる。彼らはIBMで働くことが好きで、今後も働き続けたいと思っている。そのためにも、IBMの会長兼最高経営責任者(CEO)であるGinni Rometty氏をはじめとする幹部らに、会社を存続させてもらいたいと考えているのだ。

迫り来るタイムリミット

 こうした心温まる話がある一方で、Cringely氏は厳しい部分にも触れている。それは、タイムリミットが近づいているという点だ。Sam Palmisano氏がCEOを務めていた時代から(Palmisano氏は、「IBMを救った男」と呼ばれたLou Gerstner氏の後継者である)、IBMでは社内目標として2015年までに1株あたりの利益(EPS)を20ドルにまで成長させるという目標を定めていた。その2015年を目前にしながらも、多くはその目標が達成できないのではないかと危惧しているのが現状だ。

 2014年8月15日現在、IBMのEPSは約14ドルとなっている。この件についての報道をざっと眺めてみると、この目標を達成することが非常に重要だとする意見と、あまり関係ないとする意見とで約半数に割れている。

 Gigaomの報道によると、現CEOのGinni Rometty氏は当然のごとくその目標値を重要視しているようだ。事実、一部では目標を達成することこそがRometty氏の任務だと考えられている。いずれにせよ、IBMの内部ではEPS20ドルという目標値やそれにまつわる話すべてが邪念の元となっており、「2015年へのデスマーチ」と表する者さえいるほどだ。

 目標の達成に疑念を抱いているのは、IBMで継続して行われている人員削減や事業縮小に最も怯えている人たちのようだ。Cringely氏はこの点についてもまとめており、IBMが同社の方向性について結束力のあるアイデアを探し求めているとしている。

 Cringely氏は同氏らしく、言葉の武器を使い、IBMの犯したこれまでの失策や間違った方向性、そして近年の失敗とつまずきを思いのままに攻撃している。同時にCringely氏は、どうすればIBMが立ち直れるのか、建設的なアイデアや理論も投げかけている。

 Rometty氏が知性を持った人物であるのなら(かなりの知性を持った人物でありそうだが)、すぐにでもCringely氏(というかMark Stephens氏)と契約すべきだろう。彼はIBMを知り尽くしているようで、何がIBMを苦しめているのか知っている。何よりも彼は、IBMの修復に向けたアイデアを豊富に持ち合わせているのだ。

 Cringely氏が言うようにIBMの危機がそれほど差し迫ったものであるのなら、同社はあらゆる支援を受けるべきである。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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