世界のほとんどの場所に「デスクトップLinux元年」がまだ訪れていない。しかし、ドイツ南部のミュンヘン市はこの10年間、「Windows」から離れる取り組みを進め、Linuxや「OpenOffice」(後に「LibreOffice」へ移行)などのオープンソースソリューションを積極的に採用してきた。
ミュンヘン市議会は2003年、この移行に向こう10年間で3000万ユーロを投じ、「LiMux」というカスタムバージョンの「Ubuntu」を採用することを決定した。2013年にその移行作業の完了が宣言されている。
しかし、画期的な移行の完了から何カ月かたった今、新たに組織されたミュンヘン市の連立政府は、Linuxを段階的に廃止してMicrosoft製品に回帰すべきかどうかを決定するための調査を委託している。
テクノロジをめぐるこの駆け引きには、政治が絡んでいると見ていいかもしれない。
ミュンヘン市の第二(副)市長であるJosef Schmid氏は、職員から不満の声が上がっているため、再調査が必要だと述べた。Schmid氏によれば、職員は移行に「苦痛を感じている」という。Schmid氏は2014年、決選投票でDieter Reiter氏に敗れたが、5月に連立政府の一員として第二市長に指名された。
Microsoft製品の利用を終了するという最初の決定は、コストに基づいて下されたわけではない。欧州委員会(EC)が2008年にまとめた報告書によると、その主な動機はむしろ、「ソフトウェアサプライヤー依存からの戦略的な脱却という強い欲求」であり、これには米ワシントン州レドモンドに拠点を置く超大手のソフトウェアサプライヤー(編集部注:Microsoftのこと)も含まれていたという。最初の決定について議論されていたころは、Microsoftは独占企業であるとの主張が支持者の間で多く聞かれた。
2003年の最初の調査では、Windowsと「Microsoft Office」ベースの「プロプライエタリソリューション」のコストが3500万ユーロと試算されていた。これは人件費とトレーニング費用を含めたオープンソースの代替ソリューションのコストより250万ユーロ安い数字だった。
ミュンヘン市が委託した2012年の調査の報告書では、この移行で1160万ユーロを節約できたとされている。この金額には同市の1万5000台のPCで見込まれる費用が含まれており、「Windows 7」導入に必要なハードウェアアップグレード費用が500万ユーロ、Windowsのライセンス費用が420万ユーロ、Officeのライセンス費用260万ユーロとなっている。同市の報告書では、いずれのシナリオでも人件費とトレーニング費用は同じで、約2200万ユーロと試算された。