AWSはなぜ売れたのか
AWSが早い段階から市場シェアの確保に成功した理由はいくつか考えられます。
1つは、サービス開始時期から低価格でクラウドサービスを提供していた、という事実です。私も長年IT業界に従事していますが、競合他社が保有していない新規技術やサービスを世に出すときは、通常、高額なプレミアム価格で事業を押し通すことが許容されるのがこの業界のセオリーと理解しています。顧客からすれば、他に価格交渉の比較先がないので、成立する理論です。
AWSとて、仮想マシンサービス「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」とオブジェクトストレージ「Amazon Simple Storage Service(S3)」の価格帯を同じクラスのサーバの購入費+維持費+人件費を3年分割した値段に少しマージンを乗せて設定すれば、十分にクラウドのアジャイル性(5分でサーバを立ち上げられる、という強み)だけでそれなりに高マージンなビジネスモデルが成立したはずです。しかしそうではなく、当時からすれば、異常に低い価格帯で販売するという戦略を取った背景には、Amazon自体がもっているECのDNAが働いている、という意見が多いようです。
低い価格で先行的に市場投入することにより、グローバルでの急激な普及、絶対的な市場シェアを確保し、Amazonの経営方針である、マージンよりフリーキャッシュフロー(シェア拡大による売上総額)を重視する戦略がそのまま生かされています。

もう一つは、常に開発者(Developer)に全面的な主眼を置いた事業モデルを貫いている、という点です。ITを構築/運用するのは企業内の開発者であり、このセグメントにいる人をEmpower(支援)することが事業の成長につながる、という考え方が市場に大きく受け入れられた、ということです。
IT企業の従来からのカスタマーである、IT管理者(Operator)にもはや主眼が置かれていない、というのがクラウド市場の今の姿であり、既存のIT企業がクラウドを上手く活用できずに苦しむ要因にもなってます。この「開発者主体」のITサービスモデルは、ひいては新規サービスを次から次へと、ベータ版であろうと打ち出していく戦略につながり、スピード感のあるサービスビジネス、という決定的なイメージをAWSに植え付けています。
これはAWS上の巨大なサードパーティによって構成されるエコシステムにも反映してますし、他社との差別化をさらに自然に作っていく一助にもなってます。新規サービスを開発する資金は、当然のように、マージンではなく、フリーキャッシュフロー志向の事業収入から回ってきます。