2020年までにIT需要が急増するという調査結果を1回目で紹介し、2回目は、2020年のITと現在とで大きく変わる点は主に「システム開発の複雑性が解消すること」「ITオペレーションがスリム化すること」「IT要員のスキル不足が深刻化すること」の3つであると述べ、1つ目のシステム開発の複雑性解消について触れた。今回は2つ目、3つ目について、詳しく解説する。
ITは、高まる期待にどのように応えていくのか? システム統合や規模の拡大は、もはや共通解ではなくなった。事実、A.T. カーニーの調査では、約60%が最高情報責任者(CIO)はその逆の回答をしており、コンポーネント化やシステム間の疎結合が進むと回答している(図表1)。これらは、ビジネスの要求に迅速かつ効率的に応えることの一助となる。
(図表1)
2:ITオペレーションのスリム化
例えば、デジタル化がいかにメディア業界に変革をもたらしたかを考えてみよう。これまでは、コスト効率の観点から、編集、印刷工程の改善および安定化が、集約化されたIT組織のミッションであった。
今やコンテンツはデジタル化され、デジタルメディアの成長に向けた新たな機能が求められるようになっている。デジタルメディア市場で生き抜くためには、スピードや柔軟性が必要不可欠であるからだ。
A.T. カーニーが支援した欧州の出版事業者の事例を紹介したい。この企業は、スピーディなデジタルコンテンツの作成、編集を目的とし、新たに子会社を立上げた。この子会社は、既存のIT組織の一部として創設され、革新的なデジタルメディアを創出し、出版事業者をデジタルメディア企業へと変革することをミッションとした。この取組みによって、従来の出版事業と切り離し、デジタルメディア市場で求められる個別要件をスピーディに実現することを可能とした。
標準パッケージシステムを導入し、印刷工程のコスト効率や安定性の向上を図る一方、デジタル領域には先進的なソフトウェアを活用することで、事業のスピードアップや、付加価値値向上を実現したのである。また、この取り組みはデジタルビジネスになんら影響を与えず、古いアプリケーション群の統合や、システム規模抑制の実現にもつながった。
アウトソーシングとオフショアリングは、全ての業界において、多少の違いはあるものの、今後も進展することが予想される(図表2)。アジア地域における人件費が向上しており、より言語の壁が低く、密にコミュニケーションの取れる東欧地域に、欧州、中東、アフリカ地域(EMEA)の企業がオフショアリングするデリバリーモデルが構築されつつあるが、この動きは緒についたばかりで、アジア地域から東欧地域への切り替えには様子見が必要である。
図表2
英語が世界公用語となっているため、北米や英国の企業ではアウトソーシング、特にオフショアリングが進展している。EMEAの企業にとって、言語の壁がオフショアリングへの最も大きな課題であるが、コスト効率性向上のために否応なく、この取り組みを進めている。