「情報通信白書」最新版を読む

「情報通信白書」最新版に見るICTの現在(中編)--到来するデータ活用社会 - (page 3)

田島逸郎

2014-10-15 07:00

パーソナルデータの活用の現状と課題

 個人に関する詳細な行動履歴などを活用する「パーソナルデータ」の活用事例も、近年急激に増加しており、それに応じてプライバシーの問題も起き始めている。情報通信白書でも現状と今後の展開についてまとめられている。

 パーソナルデータの事例としては、NTTドコモが提供する「モバイル空間統計」やKDDIとコロプラが提供する「観光動態調査レポート」などの、携帯電話端末の位置情報を元にしたデータや、トヨタの車の位置情報を元にした「ビッグデータ交通情報サービス」など位置情報のデータ利用が活発である。また、ソニーは各個人の調剤情報を匿名化した上で感染症流行状況などの把握に活用する「電子お薬手帳サービス」などを展開している。


「モバイル空間統計の作成手順((株)NTTドコモ)」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:(株)NTTドコモ作成資料

 このようなパーソナルデータの流通に伴い、海外ではさまざまな政策が動いている。米国では大統領の指示による調査や検討結果が提出されており、懸念を払拭させるようなさまざまな提言がなされている。欧州連合(EU)では利用者が他のサービスにデータごと移転できる「データ持ち運びの権利」などが提案されているほか、EU圏外とのデータのやり取りについても認証が必要になるなど制度の整備が進んでいる。

 国内では、「パーソナルデータに関する検討会」が設置され、第三者機関の体制整備、個人の特定に関わる可能性の低減、国際的な調和、プライバシー保護などを踏まえ、「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大網」が決定されて法案の作成に着手している。

 パーソナルデータの活用についての利用者へのアンケートでは、氏名、住所などの本人に直接アクセスできるデータにプライバシー性が高いと感じ、データ提供については適切な同意取得を優先する利用者が多かった。

 また、データを提供する相手方は国や自治体、病院などの公共性のある組織なら良いと考える傾向にあり、利用目的でも緊急時、防災の場合なら許容度が高く、快適性、利便性目的では低かった。加工手法では、個人を特定できる情報を無名化すると格段に許容度が上がることが推測された。


「個別事例におけるパーソナルデータ提供の許容度」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年)

さまざまなデータをうまく活用していくには

 ここまでビッグデータ、オープンデータ、パーソナルデータという3つの違う種類のデータを扱ってきたが、これらを合わせて本格的なデータ活用社会の到来が始まっている。

 データ活用については、「見える化」を超えて異常を知らせる「自動検出」、将来についての「予測」、さらに最適化モデルを立てて「自動制御」するといったように、活用の度合いの深化が見られる。また、企業内や組織内部のデータと公共データなど外部のデータを組み合わせることで新たな知見を得ることが多くなることが予測され、データの社会インフラとしての性格が強まっていくだろう。

 (後編に続く)。


「データ活用の深化」出典:「平成26年版情報通信白書」(総務省)、原出典:鈴木良介「ビッグデータビジネスの時代」をもとに総務省作成

 一方、価値の高いデータは利用者のプライバシーを侵害しうる。このような問題を避けるべく、制度設計や利用者の理解なども必要となる。また、データを活用できるデータサイエンティストなどの人材の不足も問題となっている。新たな価値を生み出すには多くの課題をクリアする必要があるだろう。

(後編に続く)

田島逸郎
いくつかのスタートアップに関与しながら、スマートフォン情勢に関心を持ち、個人的に調査、記事の執筆などを行っていた。現在は地理空間情報系のスタートアップで、主にGISやオープンデータなどに携わる。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]