ビッグデータやマシンラーニングは、現在最大級のオンラインビジネスやオンラインサービスをより強化するものとなっている。こういった技術を自社にも取り入れたいと考えるのであれば、この技術で何ができるかのみならず、どのような仕組みになっているかを理解する必要があるだろう。Jared Dean氏の「Big Data, Data Mining, and Machine Learning」(「ビッグデータ、データマイニング、マシンラーニング」の意)は、ビジネスリーダーがこうした技術を理解し、実用化に向けたガイドラインを提案する1冊となっている。
Big Data, Data Mining, and Machine Learning: Value Creation for Business Leaders and Practitioners ● 著者:Jared Dean ● 出版社:John Wiley & Sons ● 288ページ ● ISBN 978-1-118-61804-2 ● 42.50ポンド
最初の章では、まずビッグデータとは何なのかが説明されている。そこには、ビッグデータ関連の作業がいつもの日常的な業務に陥ってしまうと、ビッグデータが単なるデータに戻ってしまうという賢明な指摘もある。また、完全なデータセットを扱う方が、サンプルのみを扱うよりずっと効率的である理由も書かれている。サンプルが統計的に有意であることを証明するのは大変な作業だし、全データを調べない限り見えてこないパターンもあるためだ。
しかし、同書では最初から、この中で紹介されているアプローチが果たして正しいかどうかはわからないとしている。Dean氏の同僚である分析スペシャリストが執筆した前書きでは、ここに書かれたアルゴリズムがすべて最低でも15年前のもので、「根本的に新しいアルゴリズムは必要ない」と述べているのだ。とはいえ、著者自身も最初の章で、さまざまなアルゴリズムは最近「成熟しきった」としている。さまざまな形式の統計的回帰を含め、古いアルゴリズムが多くの予想システムを動かしているのは事実だが、最近大きく発展したマシンラーニングの進化は考慮されていない。
Dean氏は、予測分析の分野で長年の実績があるSASの社員で、彼がこの分野に詳しいのも納得できる。だが、ここ最近のアルゴリズムを無視してはいけない。これこそが最近急速に発展している分野なのだ。ビッグデータを扱いたいと考える企業にとって、最先端の音声認識や画像マッチングの基礎となるディープラーニングに手が届く日もそう遠くないかもしれないのだ。
Dean氏は、ビッグデータ関連の発展からコンピュータの構成やデータベース技術の概略に至るまで、歴史的背景に沿って情報をまとめることに時間をかけている。ビッグデータプロジェクトは、それに耐えうるハードウェアがない限り失敗に終わるということを指摘しておくのは大いに意味のあることだが、ここにはシステムを設計できるほどの詳細な情報や、進化の早いハードウェアに関するアドバイスなどは何も書かれていない。いまではGoogleやMicrosoftがクラウドベースのマシンラーニングや分析ツールを提供しているが、クラウドでの運用についても本書では全く触れられていない。
ビッグデータ関連のソフトウェアツールについても若干選り好みしている印象がある。RやPythonなどの専門的なツールをカバーしているが、その多くはSASについての内容だ(SAS社員による著書なのだから当然かもしれないが)。
役に立つのは予測分析の章だろう。ここでは、その本質の一般的な説明とハイレベルな統計テクニックの詳細がうまくまとめられている。また、回帰分析の基礎を作った全く異なる数学者2人の社会的背景やニューラルネットワークの生い立ちなど、さまざまな歴史についても学ぶことができる。後半では、パーセプトロンをはじめとする初期のモデルに関する詳細や、1980年代に大きく発展した前方伝播および後方伝播などの概略についても述べられているが、突然ニューラルネットワークが幅広く使われるようになった現代に戻り、なぜこれが再び人気を得たのかについては説明されていないといった面も見られる。
また、古いアルゴリズムに固執することで誤った方向に導かれることもある。ここでは、ディープラーニングについては3段落しか触れられておらず、古い資料が2つ並んでいるだけだ。ディープラーニングとは、音声認識や画像分類といった困難な人工知能の課題を扱うマシンラーニングのテクニックで、いまやGoogle、Microsoft、Facebook、Baiduといった企業がこの分野の研究者を雇っている。その後、また回帰ツリーやベイジアンネットワーク分類といった統計学的手法に話が戻り、次にセグメンテーションやカルシフィケーション、モデリングレスポンスなどの話題に移る。データマイニングについて時系列で解説している部分はすばらしいが、その長所やランキングの詳細は簡単にしか触れられておらず、統計的手法に基づいたものとなっている。
本書では全体的に、日々何を着るべきか、また混雑したイベントでその場を去るのが少し遅くなるとどれほど帰宅に時間がかかってしまうかといったように、実社会に基づいた事例をうまく選びつつ、複雑な統計的コンセプトを解説している。特にテキストマイニングの章ではこうした解説がわかりやすく、クイズ番組「Jeopardy!」の問題でいかにこの手法が効果的か、詳しい例が挙げられている。また、ケーススタディの最後では、一部の企業がどのようにビッグデータを活用しているか、なぜこのモデルを選び、どのようにモデルを構築したかまで詳細に描かれており、非常に役立つ内容だ。
注目されるマシンラーニング
本書は、今後の発展についての調査で終わっている。Dean氏は、この分野の「伝統的な」アルゴリズムはよく検証されたもので、今後も長く使われるだろうという考えを繰り返すと共に、最近起こっている進化に対しては懐疑的であることを強調している。現代のマシンラーニングで急速に主流となりつつあるエンティティ抽出や特徴検出、ランキングの手法については触れられていない。複数のアルゴリズムを組み合わせてマシンラーニングを訓練、評価し、稼働させるといったことや、異なるマシンラーニングのアルゴリズムが出す結果を比較し、誤検出や検出漏れがないかを調べるといったような重要性を増してきている原理については、数ページが割かれているのみだ。さらに、特定の課題に対して適切な答えを導き出すにはマシンラーニングシステムに経験則を適用する必要があるが、それについては全く触れられていない。
タイトルではマシンラーニングを謳っている本書であるが、これは実際にはマシンラーニングというより予測分析におけるビッグデータやデータマイニングについて書かれた本である。それについてはしっかり説明されており、レベルが高すぎて役に立たないということも、実装や技術の詳細ばかりでよくわからないということもない。だが、ビッグデータやマシンラーニングのように動きが速い分野では、堅実ではあっても伝統的な手法はすぐにさびれてしまうことだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。