また、「Appleがカード発行会社=金融機関と交渉して、手数料をもらえるようにしたことだけでも大したもの(なぜならGoogleなどでもできていなかったことだから)」といった専門家(業界関係者)のコメントもFT記事には引用されていたりするが、Appleからしたら手数料とはいっても利用額の0.15%(100ドルで15セント)という少なさだから、年商1710億ドル規模になった会社にとっては大した収入源にはなりそうもない。
クレジットカードによる買い物金額が米国だけで1日平均120億ドル($12 Billion)とTim Cookは発表のなかで述べていたが、その0.15%となれば0.18億ドルで、それに365日分をかけても65.7億ドル(=$6.57billion)程度。無論、全部の取引がApple Payで行われたと仮定しての話である。それとは別に、今年5月にはAppleが中国のUnionPay(東京などでもわりとよく見かけるようになっている中国銀聯)と組んでNFCにも対応する新型POS端末の普及に取り組んでいくことにしたようだという話も一部で流れていたが、これについてはあまり詳しい話も出ていないのでいったん脇に置くことにする。
いずれにしても、新しい(Touch ID付き)iPhone内部の「セキュアな部分」に保管されたカード情報は、暗号化されたままカード決済事業者(もしくはカード発行者)のサーバまで運ばれる。AppleはiPhone(とApple Watch)という「土管」の入り口を用意するだけで、そのなかを通るデータにはタッチしない。そのため、Apple Payが直接的に大きな利益につながる可能性は少なくとも当面はそれほどない(また新しいハードウェアを売り込むための材料としては「大きな画面」などのほうがよほど有効だろう)。
そんな「あまり儲からなそうなこと」――もうすこしきちんというと、付加価値は小さくないはずだが、その付加価値の対価として得られる直接的な利益はあまり期待できないことを敢えてやってきたAppleにあらためて面白さを感じている(そういうやり方は「Googleの十八番」などと思い込んでいたので)。もちろん、ユーザー接点という部分で膨大なお金の流れにAppleが棹さしたことの影響は今後じわじわと現れてくるのかもしれないが。
「Appleの利益は別の業界の損失、となることが往々にしてある(iTunesの例で示されたように)」というFT記事の指摘が現実になるのか、またなるとすれば具体的にどんな形をとることになるのか。これから数年間はそれが注目点のひとつとなりそうな感じもしている。
[Apple Pay Is a Game Changer: Piper Jaffray's Gene Munster - Bloomberg West] (GigaOM元主筆のOm Malikや、Piper JeffreyのGene Munster(証券アナリスト)といった「玄人筋」もApple Payを前向きに評価)
- 【参照情報】
- Apple wages war on the wallet - FT.com
- Home Depot Says Data From 56 Million Cards Was Taken in Breach
- Tim Cook Q&A: The Full Interview on iPhone 6 and the Apple Watch
- Everyone Wants Under the Apple Tree
- Analyst: Apple has reached deal with China UnionPay, could include NFC in iPhone 6
- A message from Tim Cook about Apple’s commitment to your privacy.