Oracle OpenWorld 2014

エリソンCTOの野望はソフトウェア・イン・シリコン--OpenWorld 2014基調講演

怒賀新也 (編集部)

2014-09-29 17:40

 既報の通り、米Oracleは年次ユーザーカンファレンス「Oracle OpenWorld San Francisco2014」を米国時間の9月28日に開幕させ、初日となる28日の基調講演に最高技術責任者(CTO)、Larry Ellison氏が「Modern Cloud」をテーマに登壇した。

 「Larry is back. He is on fire」(ラリーが帰ってきた、彼は燃えている)

 基調講演後にこうコメントしてくれたのは、米IT調査会社Constellation Researchの代表を務めるRay Wang氏だった。「CEO(最高経営責任者)交代の影響はまったくない。もともと、Larryが製品開発に専念するためのものだったのだから」と同氏。

 この日、Ellison氏はクラウドに最大限に注力していくことを幾度となく述べるとともに、「アプリケーション(SaaS)、プラットフォーム(PaaS)、インフラ(IaaS)というすべてのレイヤでクラウドサービスを提供するのが30年前から顧客に約束していたことを守ることになる」と強調した。

クラウドへの最大限の注力と、さらにSoftware in Siliconへの期待を示したEllison氏
クラウドへの最大限の注力と、さらにSoftware in Siliconへの期待を示したEllison氏

オンプレ環境をノーコーディングでクラウドへ

 具体的に、新たに発表したのが「Oracle Cloud Platform」だ。これは、既存のOracle のDatabaseアプリケーションを、「ボタンを1つ押すだけで」クラウド環境に移行させることができるというPaaSの位置づけ。しかも、マルチテナントやモバイルアプリケーションの構築環境、インメモリ型のデータ分析機能などをあらかじめ備えている。

 「既存のIT投資を維持したまま、顧客はコンピューティングの新たな時代へと移行できるのだ」(Ellison氏)

さすがに年齢は年齢(70歳)ということで、時々を息を上げながらコーラを飲んでいた。「もうドラッグじゃなくてコーラだけにしてるんだよ」とジョークも飛ばして会場を沸かせていた
さすがに年齢は年齢(70歳)ということで、時々を息を上げながらコーラを飲んでいた。「もうドラッグじゃなくてコーラだけにしてるんだよ」とジョークも飛ばして会場を沸かせていた

 さらに、プラットフォーム領域におけるデータベースをサービス化する「Database Platform as a Service」のアップデートについても触れた。

 「データベースアプリケーションをクラウドに移行する際に、データサイズを10分の1にまで圧縮し、暗号化する。また、インメモリ処理を実施できるようにし、アプリケーションをマルチテナントに対応させる。これらは、いずれも自動的に実施する。モバイルやソーシャル、アナリティクスといった機能を追加するのも簡単だ」(同氏)

 クラウドに載せた後は、負荷に応じたサーバやストレージのリソース割り当て、バックアップとリカバリ、パッチ適用、データ保護、Real Application Clustersによる冗長構成(近日公開予定)などがこれも自動で実施され、管理ポータル機能も利用できるという。

 ここまで「クラウド全面押し」の前評判通り、IaaS、PaaS、SaaSという全レイヤでのクラウド化を強調したEllison氏だった。ある意味、クラウドへの対応の仕方で勝負が決まるとされる最近の業界的な論調に沿う内容だったと言える。

ソフトウェア・イン・シリコンへの期待

 だが、SaaSからIaaS、PaaS、さらにデータベースの話に移っていくうちに、Ellison氏が明らかに興奮度を高めていったのが「ソフトウェア・イン・シリコン」の領域にさしかかった時だった。Ellison氏の基調講演の前に登壇したのがIntelプレジデントのRenée James氏だったことからも連想はできることではあった。Ellison氏は、シリコン、すなわちプロセッサ上にデータベースやアプリケーションなどのソフトウェアを載せることに、現在最も心を奪われているようだった。

 現在開発中のプロセッサ「SPARC M7」は、高速なインメモリ処理エンジンやデータ圧縮エンジン、データセキュリティを確保する機能などを丸ごとハードウェアに格納している。現在はラボで研究開発しており、2015年に登場する予定だ。

発表した「SPARC M7」
発表した「SPARC M7」

 ソフトウェア・イン・シリコンの考え方が画期的であることは、その理由を知ると納得できる。さらに、インメモリ技術を組み合わせると、その効果は非常に大きい。

 まずパフォーマンス面では、プロセッサ上に搭載されているメモリを直接読み込めるだけでなく、プロセッサ自体がより高い性能を出しやすい環境で、もともと高速を売りにするインメモリ処理を実施することになる。従来型のアーキテクチャと比べれば、ディスクアクセスという最大のボトルネックが解消されるだけでも効果的だが、それがさらに進化することになる。

 また、特にインメモリやストレージ上のデータを処理する際に、データ圧縮がパフォーマンスに大きく影響を与えるという。

 「現在のプロセッサの圧縮機能はディスク向けはまずまずだが、フラッシュメモリ向けになると性能が劣る。これがインメモリデータベースの巨大なボトルネックになっている」(Ellison氏)

 SPARC M7では、プロセッサ上での圧縮性能を大幅に高めているという。

ソフトウェア・イン・シリコンによる理論上考えられるパフォーマンス改善は驚異的なほど
ソフトウェア・イン・シリコンによる理論上考えられるパフォーマンス改善は驚異的なほど

セキュリティは次の30年の約束

 Ellison氏がソフトウェア・イン・シリコンにこだわるもう1つの理由は、セキュリティ機能にあった。

 「現代においてデータを守ること以上に大切なことはない。次の30年に向けたユーザーへの約束と考えている」(同氏)

 プロセッサ上にセキュリティ対策を施すことにより、ハードウェアベースのメモリ保護が可能になる。悪意のプログラムがやってきた時に、「プログラムの場合はしばしば間違いを犯し、アクセスさせてはいけないメモリにアクセスを許してしまうことがある」(Ellison氏)

 ハードウェア上で処理する場合、このおそれがなく、メモリの使用違反を防止してシステムの高い安全性を確保できるという。

コメントした米Constellation ResearchのRay Wang代表
コメントした米Constellation ResearchのRay Wang代表

 前述のWang氏は「非常に印象的な基調講演だった。クラウドを前提に、IaaS、PaaS、SaaSのすべてを本格展開しようとしている企業はOracleだけだと言える。IBMもやろうとしているかもしれないができてはいない。HPやEMCもその意味では厳しいだろう。以前の勢いのあったLarryが戻ってきてくれたことに感銘を受けた」と話した。

 また、日本のIT調査会社であるITRのアナリスト、生熊清司氏は「数年後のEllisonは“(親指と人差し指をつまむ格好で)こんな小さいチップの中にデータベースもアプリケーションも全部入っているんだ”なんて言いそうですね」と冗談交じりに話していた。

 この日Ellison氏が見せた勢いを、競合企業やユーザー企業がどのように受け止めるのか。その先に、どのようなテクノロジの進展が待っているのか、興味深いところだ。

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