情報を制するものは災害を制す--医療現場から考える情報共有“速度”の重要性 - (page 2)

遠山恵子 (インサイト)

2014-10-23 12:53

遠隔で認知症を評価

 高齢者医療に関しては、成本氏が文部科学省の公募事業「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」での取り組みを解説した。成本氏は同ブログラムでトライアルに採択された事業のひとつ「COLTEM」で研究リーダーを務める。

成本迅氏
京都府立医科大学 大学院医学研究科 成本迅氏

 COLTEMは、高齢者の生活について、健康なときから認知症を発症して判断能力が低下した状態まで一環して支えるための包括的な支援システムの構築を目指すプロジェクト。法学や工学、医学の研究者、実務家、企業、行政が一体となって関わっている。

 「高齢化率30%以上の京都府京丹後市をモデル地域に設定して、京都府立医科大学や丹後保健所、京都府医師会、認知症患者と家族の会などが中心となって活動を開始。その後、慶應義塾大学の医学部や理学部、千葉大学の法政経学部、多くの民間企業に参加いただいた」(成本氏)

 民間企業としては、老人ホーム運営のベネッセスタイルケア、預金や保険の管理や信託事業などでかかわる三井信託銀行、京都銀行、ソニー生命などのほか、システムや環境構築、技術開発面でシスコ、IIJグローバルソリューションズ、アールエフネットワーク、アイトシステム、村田製作所、住友電工、LIXILなどが参加する。

 具体的な取り組みは、(1)チェックリストや対応マニュアルを開発、配布する「意思決定サポートセンター」、(2)リスク認知に及ぼす影響を検証する「意思決定の特徴」、(3)映像会議などの技術を使って遠隔で認知症を評価する「遠隔技術」、(4)認知症患者を見守るシステムを開発する「認知症の早期診断見守りシステム」、(5)「電波センサを用いた見守りシステム」――という5つが進められている。2015年10月までに成果を報告し、その評価でさらに7年間の研究開発を続けるスケジュールだ。

 シスコは「遠隔技術を用いた能力評価の開発」の実証実験に参加する。この実験では、高齢者の感覚障害をサポートする技術開発として、医師が認知能力を遠隔診断するシステムを検証する。遠隔地点をつなぐコミュニケーションシステムの手段として、IIJグローバルはSaaS型のマネージド映像会議システム「COLLABO de! World」を用い、シスコは映像会議システム「Cisco TelePresence」を提供、7月24日に検証拠点に設置した。

 「私の専門は認知症だが、テレビ会議などを使った遠隔での認知症評価の窓口を開設すると、すぐに数カ月先まで予約でいっぱいになるような状況。ニーズが多いが、専門医が足りていない」と成本氏。

 遠隔技術のメリットとしては、距離を問わないこと、時間の節約ができること、コストが削減できること、映像や音声、安全性が向上すること、バイアス除去や標準化が容易であることなどを挙げた。医療従事者側からは、へき地でも専門家がアドバイスできる、投薬のないカウンセリングが可能である、中央評価者による精神症状や認知機能を評価できるといった利点があるという。

 成本氏は「医療分野ではICTの活用が民間企業ほど進んでいないのが現状だ。軽度の認知症で自分で契約などできなくなる高齢者はどんどん増えていく。民間企業の力を借りながら、窓口での遠隔技術による能力評価の実施や高齢者対応のサービスの開発に取り組んでいく」と話した。

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