Fire Phoneで何を提供するべきだったのか
AmazonはFire Phoneでいったい何を提供すればよかったのか。この疑問に対する答えの手がかりになりそうな話が10月24日付のThe Wallstreet Journalの記事に出ている。AT&Tが今年前半から実験を開始した携帯通信のデータ料無料化サービス――「SponsoredData」という名前で、ユーザーに代わってウェブサービスの提供事業者側がコンテンツの配信にかかるデータ通信料を負担するというもの――を取り上げたこの記事には、例えばオンラインマガジンのSlateで、ポッドキャストがデータ料タダで聞けるようになったことで「反応率が61%も上昇した」といった話や、Expedia.com、Hotels.com、StubHub(eBay傘下のチケット販売サイト)などがこの実験に新たに参加することになったといった話が紹介されている。
いわゆるネット中立性などの観点から「強者(既存の大企業など)が有利になる」といった批判もあるこのサービスが、データ通信料のメーター制が主流になった米国で大いに受けそうなことは想像に難くない。WSJでは、2013年の携帯関連支出が2007年に比べて50%も増加し、約5分の1の世帯が年間1400ドル以上も支払っている、といった記述もある。
われわれは、顧客がデバイスを「買った」時ではなく、「使った」時に利益を得ると説明するBezos氏
Amazon Primeに加入していれば(Prime InstantVideoで)テレビドラマや映画がほぼ見放題とはいっても、携帯電話会社からの請求書が気になっていては、なかなか「存分に楽しむ」わけにもいかない。別の見方をすると、Amazonがもしこの苦痛点(painpoint)を取り除くことにつながるような何らかの付加価値を提供できていれば、FirePhoneにはもっと注目が集まっていた可能性があるといえるかもしれない。
実はFire Phone発表前に、Amazonが「PrimeData」(仮称)というデータ通信料肩代わり案の導入を検討しているとの噂が流れ、この関係でAT&Tの名前が浮上していたことがあった。フタを開けてみれば、実際にAT&Tの独占取り扱いにはなったものの、料金に関しては特に目新しい事柄は何も出てこなかった。
FirePhone発表直後に出ていたReadWrite(RW)記事には、「Amazonがスマートフォンを手がけることに対する期待は、ハードウェアの機能やソフトウェア関連のイノベーションとはまったく関係ないものだった」「既存のデータ料金や端末価格の在り方を吹き飛ばすことにこそAmazonのチャンスはあると考えられていた」などとある。
Amazonが「PrimeData」の実現を見送ったのは、そんなものをストレートにやってもソロバン勘定にあわない――毎月何十ドルもデータ通信料を肩代わりをして採算に合うほど大量に買い物してくれそうな潜在ユーザーはほとんどいない――というだけのことかもしれない。