日産のデジタル化戦略
行徳氏はCarlos Ghosn氏が組織に求めるITの価値として、1年ほど前から、「迅速に提供」し、「事業運営の加速支援」となる“Speed”、グローバルレベルでのシステムやプロセス、データを標準化を示す“Standardization”、使い勝手がよく、必要な情報が容易に手に入る“Simplification”という3つのSを求められていることを明かした。
「この3つのSは(今回のテーマでもある)デジタル化を推進することにも当てはまる。“デジタル組織”をつくるという表現ではなかったが、 Ghosn氏の意向に組織のデジタル化は当てはまると認識している」(行徳氏)とし、デジタル組織を実現するために施策を説明した。
ビッグデータ分析基盤の構築
注力しているのはビッグデータ分析基盤の構築だ。ビッグデータの基盤構築は10億円単位の大きな投資を想定しており、現在、3か年計画の2年目として、どのようなプラットフォームにすべきか実証実験を実施、2015年の運用を目指している。
社内の基幹システムや、車内からのセンサデータなどをビッグデータの基盤に蓄積し、データサイエンティストが分析して、(計算式などを含む)分析モデルを実装、セルフサービスで分析、業務に展開できるようなモデルを構想している。
データを集めるクラウド基盤の構築
さらに行徳氏は構築中のデータを集約するためのクラウド基盤を「実現せざるを得ないほど重要なもの」と紹介した。この基盤ではソーシャルメディアや、モバイル、ウェアラブルデバイス、クルマが常時インターネットに接続する「コネクティッドカー」などのデータを蓄積する基盤を作る。コストやセキュリティを踏まえて管理できるようにするとした。
グローバルでのデジタル化
ルノーと日産ではブランド価値を最大化させるためにグローバルデジタルプラットフォームとしてマーケティングメッセージや、ウェブページの要素、ガバナンスや基盤を1本化する。
シリコンバレーへのオフィス設置
さらにシリコンバレーにオフィスを設け、社員にベンチャー気質を養わせるとともにデータサイエンティストがビッグデータに取り組む環境を推進していることなどを明かした。
車のデジタル化(コネクテッドカー)
ネットに常につながるコネクテッドカーの可能性としては、「将来の“自動運転”も見据えている。センサ情報から故障個所の発見や、マーケティングへの活用、盗難対策を始め、車が生み出すビッグデータにより、さまざまな事業展開が可能だ。保険や渋滞、地図サービスなどとの連携だ。
デジタル化の取り組みはすでに始まっている。電気自動車の「リーフ」を使ったビッグデータ解析では、ノルウェーと日本での走行可能距離の差に注目した。「ノルウェーのユーザーは乗車前に車内をヒーターで暖めていたため移動距離が距離が長く、日本のユーザーは走行中にヒーターを使用したため走行距離が落ちた」ことがわかり、ユーザーに知見を共有することができたという。
行徳氏は「今後のデジタル組織をリードするためにはITも変わる必要がある。専門知識を持った人材がいないと嘆いてもしょうがない。私自身、日産のシリコンバレーでのオフィス構築など、人材を自ら育てる環境を構築しており、実際の行動が必要」と提言した。
加えて、「センサからいくらデータを集めても、精度の高いデータと組み合わせなければ意味がない。基盤となる顧客データ、車のデータ、ファイナンシャルデータの精度を高めるための交通整理を考えている」とし、データ整形の重要性を訴える一方、「CIOとしては生産ラインを止めたり、車が売れないような事態になれば、いくらかっこいいことをいってもダメ。デジタル化によって、運用が後手に回るようでは意味がない」とし、“攻め”と同時に“守り”のITを運用することの重要性を語っていた。