実践ビッグデータ

ビッグデータと集合知--専門知に代わる知見を得る - (page 3)

小副川 健(富士通)

2014-11-06 10:30

専門知に代わる知見を生む

 次に、専門知に代わる知見を生むものとしての、ビッグデータ分析の可能性について考えてみたい。

 先に個人的な見解を述べると、現在もこの先も、ビッグデータ分析で得られる集合知によって、専門知が要らなくなるとは全く思っていない。最も理想的なのは、専門知と集合知が相補的に働くことであると考えている。

 このような観点で、集合知が価値を持つのは、例えば専門知が及ばない場面である。時代の流れで今までの経験則が役に立たなくなってきた場合や、新商品や新サービスリリースをする場合などは、専門知が及ばない場面の代表だろう。

 前者の場合は、既存業務で溜まったデータが使える場合が多く、また、先入観が入らない分このような場面で役に立つ可能性が高い。

 後者の場合も、既存のデータから新商品としてのポテンシャルを正しく測る指標を作り出す、あるいは、既存のデータの分析で自社のラインナップに不足している点を見出し、商品開発のヒントにするといったことができる。

 また、専門家の判断の一部だけでも集合知で代用できれば、それが大きな価値につながる、という場合もある。

 前回 紹介した糖尿病予測の例は、専門家の大量確保が現実的ではない医療分野において、糖尿病になるかならないかを集合知で代用し、新たなサービス創出に繋げる例である。

 ビッグデータから得られた集合知で、どのようなことができるだろうか。POSデータ分析の事例を1つ紹介する。

 POSデータとは、購買記録のことで、小売店の顧客の買い物で、商品ごとにいつ、どこで、いくらで売買したかというデータが蓄積されたものである。これらに加えて、ポイントカードのID番号が同時に記録され、そのIDの購買履歴を集めることができる場合もある。この例は、あるコンビニエンスストアチェーンにおけるPOSデータ1年分をもとに、ポイントカードのID毎に次の日に来店するかしないかを予測するというものである。


<図:1 POSデータを用いた来店予測>

 POSデータから、予測対象日の前から数カ月間の来店履歴、天気や曜日、顧客の登録情報などを用いて予測問題を設定し、あらゆる機会学習手法を用いて最も精度の高い数理モデルを採用するというアプローチを取った。この結果得られる数理モデル自体は到底人間が理解できるものではないが、予測の結果だけはコンピュータが出したものを読めばよく、それを集計して明日の来店者数を予測したり在庫の最適化をしたりもできる。

 また、来店しないと予測された顧客に対して、その顧客が好みそうな商品を分析し、来店を促すクーポンを発行するということもできる。数十万人という単位に対して別々のクーポンを発行するというのは、人手では到底不可能だが、ビッグデータから得られた集合知を使えば、可能になるのである。

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