クラウド市場深読み分析:イノベーションなき事業者は破壊されるのか - (page 4)

鈴木 逸平

2014-11-11 07:00

クラウドにとってイノベーションの重要性とは

 イノベーションを重要視することがクラウド事業者にとって成長を遂げるための要件だとすると、イノベーションなきクラウドビジネスは成長の可能性が極めて低いと解釈すべきなのでしょうか。

 現在、米国も日本も他の地域も同じく、さまざまなクラウド事業が登場しています。主たるITメーカー、テレコム事業者、元来ホスティング事業者だった会社など、多くが独自のクラウドサービスを提供し、ある意味ではAWSに対抗すべく事業や開発への投資がさかんです。

 しかしながら、AWSのような形でのエコシステム、サービスの充実度をもつベンダーはその中でもほとんどないのが現状です。ひとつは、多くのベンダーは元来の事業がレガシーのIT事業だったために、その延長線上でクラウド事業を展開している、という点が要因として挙げられます。当然ながら、そういう会社はレガシー事業とその顧客層を守りながら、新規事業の1つとしてクラウドサービスを提供している形が多いように見受けます。

 となると、自然とそのクラウド上で提供されるエコシステムとサービスラインアップは従来のレガシーITサービスの延長線上のものが中心になるのは当然の話です。その代表的なものは、ハイブリッドクラウド系のサービスです。

 多くのこういった「レガシー重視」のクラウド事業者は、当然ながら顧客の要望を確実に捉えたサービスの提供に重きを置きます。言い方を変えると、AWSのできないこと、やらないことを積極的に提供するという表現にもなります。

 一見、AWSの顧客層と棲み分けができるかのような「クラウド市場は実はレガシー系と純粋クラウド系の2つの市場が形成される」というような表現もよく使われますが、実際にふたを開けると、こういった顧客においても、実は個別プロジェクトでAWSを使っているケースが非常に多いことも事実です。日本市場では顧客とシステムインテグレーター、ホスティング事業者とのつながりが強い面がありますが、北米だと特にAWSの利用状況、浸透状況は深く、上記のような棲み分けが可能な市場形成は絵に描いた餅状態です。

 最近の北米市場では、「われわれのクラウド事業はAWSとは直接競合しない」といったクラウド事業社からのコメントが極端に少なくなったように思います。現実との乖離があまりにも大きいからなのではと察します。

 本題に戻ると、やはりイノベーションがクラウド事業にとっていかに重要な要素なのかを改めて見直し、AWSに対抗しうるイノベーションとは一体何なのか、クラウド事業者の企業戦略として真剣に考える必要があるように思えます。特に、レガシー企業との長年の歴史をふまえながらも、全く新しいコンセプトのIT開発/運用製品やサービスを提供することにより、市場に受け入れられる事業にすることが必要だと強く思います。

 もう1つ重要な点があります。イノベーションとは、顧客のニーズだけに耳を傾けて、それに応えるような製品やサービスを提供する手法では実現できないということです。AWSは現在の地位をユーザーからの声に応えるだけで実現したとはとても思えません。社内の強力なリーダーシップ、革新的で独自な発想があって初めて生まれた事業です。

 AWSに対抗しうる、もしくは並ぶことができるイノベーションは、会社内部から発信される独自のアイディア、卓越した技術力を組み合わせて、その後に顧客に提案しながら事業として確立していく、シーズ(Seeds)型の戦略策定が重要であることを意識する必要があると思います。

鈴木逸平
現在、日米クロスボーダー事業を専門とするコンサル企業、Suzuki Consultingを立ち上げ、北米ハイテク企業の日本進出のアドバイザリー業務を展開。対象分野は広く、クラウド、ビッグデータ、アナリティクス、 IoTなど、次世代ITの先進技術を発掘し、誰よりも早く日本市場に展開できる事が強み。頻繁に日本出張する傍ら、普段はCA州に在住し、北米IT企業との強いネットワークを維持している。

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