企業がシステムを採用・移行する際にクラウドを優先して検討する「クラウドファースト」。だが、そのアプローチには異論もある。今回はその異論に同調して一言もの申したい。
クラウドインテグレーターの“クラウド一辺倒”に異論
「クラウドファーストが浸透しつつあるが、対象となるシステムの現状をよく見れば、オンプレミスでの使用を継続したほうがよいケースもある。そこを的確に判断できるクラウドインテグレーターを育成したい」
筆者の取材に応じる富士通エフサスの今井幸隆社長
こう語るのは、富士通エフサス社長の今井幸隆氏だ。クラウドインテグレーターといえば、ユーザー企業のニーズに応じてさまざまなクラウドを連携させて効率的なIT利用環境を提供するベンダーあるいはエンジニアのことを指すが、同氏はそんなクラウドインテグレーターが“クラウド一辺倒”の姿勢であることに異論を唱える。
その異論は、富士通エフサスの成り立ちから生まれている。同社は1989年に富士通のコンピュータや通信機器などの保守・修理部門が分離して設立。当初はそうしたハードウェアの保守からスタートしたが、その後、ネットワークやシステムの企画・設計から構築・運用まで手掛けるようになり、今ではITサービスを総合的に提供するベンダーとなっている。
2014年3月期の連結売上高は2831億円。国内のITサービス会社では大手だが、業績面で最も注目されるのは直近四半期まで37四半期連続黒字決算を続けていることである。これは同社がサービス領域を着実に広げながら、その中身の品質を常に磨いてきたことの証左だ。最近では親会社である富士通から「仮想化やクラウドのインフラ構築は富士通エフサスに任せておけばよい」とも言われているという。
最も大事にすべきなのはユーザー目線の選択肢
そんな同社を率いる今井氏が、なぜクラウドファーストやクラウドインテグレーターの姿勢に異論を唱えるのか。そこには、長年にわたってITサービスを提供してきた経験と実績から、ユーザー企業におけるIT利用の現状を最も熟知しているのは自分たちだという強い自負があるようだ。とりわけ既存システムについては、必ずしもクラウドへ移行するのが最適なケースばかりではないとの思いが強い。それを端的に表したのが、冒頭に紹介した今井氏の発言である。
とはいえ、同氏はクラウドへの移行を否定しているのではない。「最も大事なのは、ユーザーの立場から見て最適な選択は何かということ。その意味では当初からクラウドありきではなく、オンプレミスも選択肢として残したままクラウドへの移行を検討すべきだ」というのが同氏の見解だ。
そこで、同社では今、新たな人材の育成に力を入れ始めている。その人材とはまさしく「オンプレミスを知るクラウドインテグレーター」である。具体的には、ITサービスをユーザー企業の最前線で提供している「サービスマネージャー」と呼ぶトップエンジニアに、クラウドインテグレーターとしてのスキルも身につけてもらう取り組みを開始しているという。
サービスマネージャーはもともとオンプレミスを熟知していることから、それにクラウドインテグレーターとしてのスキルを身につければ、オンプレミスを知るクラウドインテグレーターになるわけだ。今井氏によると、今年度末までにこうした人材をおよそ100人育成したいという。
同氏の言う通り、ユーザーの立場から見れば、オンプレミスを知るクラウドインテグレーターがいま最も求められているのではないだろうか。「ベンダー目線ではなく、ユーザー目線の選択肢を最も大事にしたい」(今井氏)との言葉が強く印象に残った。