横浜市のオープンデータ活用と挑戦--地域の課題解決と経済活性化を狙う - (page 3)

山田竜司 (編集部)

2014-11-28 07:00

 実情やニーズからITを構築していくことが実用性の高いシステムを構築する上で重要という。これまでの社会福祉関連の公官庁調達では、社会福祉の現場や実情にくわしくない職員が入札や調達を担当した例もあり、現場にあわない仕様で実用性の低いシステムができてしまった。システムの利用率が低く、機会損失があった可能性を指摘した。

 こうした状況をさらに改善するため現在、オープンデータデスクをきっかけにさまざまな研究会や勉強会に市職員や企業が参加し、互いの実情を理解しあう活動を促進させている。市職員からはIT事業者の考えていることが理解できるようになってきたという声も出ている。横浜市は横浜信組などとともに現場レベルで職員同士が協力する取り組みを継続させている。

 「これまでは企業やNPOは、(市にとって)委託や補助の関係でしかなかった。オープンデータを通じて同じ課題を共有し、協創的な取り組みができるようになった」

 関口氏はオープンデータの目的を「地域課題を市民と解決する(オープンガバメント的な取り組み)」と「企業のデータ活用による経済活性化」と考えている。LOCAL GOOD YOKOHAMAはオープンガバメントの領域であり、オープンデータデスクは経済活性化のための取り組みというわけだ。

 横浜市の取り組みを視察したいという自治体が多く、オープンデータデスクの活動の3割は他団体へのレクチャーにあてられるという。「オープンデータは残念ながら公開しても使われないケースもあるため横浜市へ視察にくる。行政はとにかくデータを出せばいいという人もいるが、それだけではビジネスにならない。鮮度とタイミングが重要。それを企業のニーズに届けて出せるかどうか。データ形式や、許容範囲も(使いやすいデータを出そうという)姿勢の問題として大事だが、データは鮮度がよくなければならない」

 経常的に地域の課題を解決するとともに経済を活性化させるために、どんなタイミングでデータを公開すれば効果的か検証を進める方針だ。

 オープンデータデスクをきっかけとして子育て支援や福祉、経済活性化などの分野で7例のシステムを検討しているとした。

相互扶助をITで作っていきたい

 これまで、経済が右肩上がりの社会では家族が基盤となり、町内会や自治体活動は専業主婦などが担うなど、互いを助け合ってきた。専業主婦が減り、後期高齢者が多くなってきた。健康で体が動く人が多いのは70代前半までという。現在、地域自治の担い手がいなくなったため地域の問題が解決できなくなり、堆積しているという認識だ。さらに単身世帯の増加や親の介護など、新しい仕組みを立ち上げなければ社会を維持して行くのさえ難しくなっていると説明する。

 オープンデータやオープンガバメントといった取り組みを政府が推進するのは、人口減、高齢社会という情勢上そうせざるをえない状況にありつつあるという側面を関口氏は指摘。子育てなど福祉領域はビジネス化が難しい側面もあるが、社会的なニーズがある。社会にとって必要な相互扶助の仕組みをITにより作っていきたいと語った。

 経済が右肩上がりの時は、時間がある人が趣味として地域自治に取り組み、役所にクレームを言えば良かった。今はその余裕はもうない。オープンデータは政府側の姿勢を示し、課題を解決する上での考える材料として非常に重要だ。あらゆるデータを公開し、好きな時に活用できるようにしておくことと共に、具体的な課題解決のためにわかりやすい形でデータを出さないと、活用してはもらえないのではないか。

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