IBMの「MobileFirst」戦略の主眼は、企業と顧客のやり取りをより短期間で、より簡単なものにすることだ。それが意味するのは、「M8」コプロセッサや「iBeacon」といったiPhoneとiPadの既存テクノロジを利用して、エンドユーザーの問題点をその場で解決する「iOS」デバイス向けカスタムアプリである。
空港での利用例を考えてみよう。チェックインカウンターの職員は顧客の搭乗券をスキャンした後、その顧客が行くべきターミナルだけでなく、時間とゲートへの行き方も即座に伝えることができる。それは初歩的な問題に思えるかもしれないが、多くの乗客にとって、よくある問題だ。
1つのアプリ、1つの問題、1つのソリューション、そしておそらく、満足した多くのエンドユーザー。IBMは顧客が信用できる頼もしいエンタープライズ企業として、その先頭に立つことになる。
しかし、ほとんどの顧客にとって重要で、より広範な問題の1つは、スマートフォンやデバイスのメーカーから電子メールプロバイダー、MDMの提供企業まで、さまざまなベンダーと関わらなければならないことだ。ほとんどの企業では、エンドツーエンドのサポートメカニズムは設けられていない。企業はあまりにも多くの人と仕事をするため、エンドツーエンドのサポートは手に負えない作業であり、多くの場合、コストがかかりすぎる。
大企業で働いている人なら、最も機能的なアプリがユーザー体験を念頭に置いて設計されていることはほとんどない、ということを十分に承知しているはずだ。アプリはデザイナーではなくエンジニアによって構築されるため、直観的でなく、扱いにくいものになる。
そこでAppleの出番だ。同社の優れたユーザー体験とデザイン性を活用してIBMがアプリを開発し、Appleは既存ツールとテクノロジ(2014年にリリースされた「Swift」開発言語など)を使って、IBMのソフトウェアやアナリティクスサービスの上にユーザーインターフェースを構築する。
Appleはデバイスとデザイン面で幅広い役割を担う。一方、IBMはエンタープライズへの販売窓口として貢献する。
販売後のケアの問題もある。米国時間11月6日、より詳細な情報が公表され、AppleとIBMがサポートメカニズムをどのように分担するかが説明された。
Appleは自社のデバイスとソフトウェアのサポートを担当する。これは「AppleCare」の現在の役割と同様だ。一方、IBMはカスタムアプリの問題と開発を扱う責任を負う。IBMのサポートチームにAppleのロゴのスタンプが押されるようなものだ。IBMは、同社が開発したアプリやアナリティクスおよびソフトウェアスタックに関して最も豊富な経験を持っているため、現場に赴いてアプリの問題を解決する人員を用意するだろう。
少なくとも当面は、大きな垂直業界が1つ欠けている。政府市場だ。
なぜか。それは設計の問題だ。Appleは「最大多数の最大幸福」という実用的なアプローチを採用している。政府市場は自らが必要とするものについて、妥協したがらないことが多い。Appleも決して譲歩しない。
iOSは既に政府機関での使用を認められている。FIPS 140-2に準拠しているため、低レベルのセキュリティ区分で使用することが可能だ。STIG認定も取得しており、米国防総省で使用できる。
全体的に見て、Appleはセキュリティ強化で政府と連携しているが、政府のニーズと、ユーザー体験に関するAppleの信条の間で、両者が満足できる妥協点を見つけるのは難しい。
簡単に言えば、政府が求めているのは、Appleが開発するはずのないものだ。政府市場に参入すれば大きな利益を見込めるが(最後の主要な垂直業界として政府市場にしがみつくBlackBerryは、それを十分に理解している)、設計の断片化はAppleの信条に反する。同社は注意を払ってはいるが、1クライアントのために、自社が重大で重要と考えるものを捨てることはないだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。