マネーフォワードは、個人向けの家計簿サービスと、個人事業主や中小企業向けのクラウド会計などのサービスを提供している。特に、単純な収支管理だけでなく、資産情報や電子マネーまで一元管理できる家計簿サービスは、サービス開始から2年弱で170万以上のユーザーが利用している。マネーフォワードの執行役員兼最高情報責任者(CIO)である市川貴志氏に、同社のシステム開発や運用の手法、今後の展開について話を聞いた。
アーキテクチャから始める
--マネーフォワードはどのような会社か。
マネーフォワードの執行役員兼最高情報責任者(CIO) 市川貴志氏 エンジニアになる前は料理人として渡仏したことも。
2012年5月に創業し、12月から個人向けの家計簿サービスを提供しています。単純な家計簿機能だけでなく、銀行や証券口座、クレジットカード、ポイントカード、電子マネー、Amazonや楽天など通販のサイトから取引情報や残高情報を“アカウントアグリケーション”という技術によって自動的に収集して、家計簿に反映するというサービスです。1700以上の金融関連サービスに対応しており、現時点で170万人以上に利用いただいています。
--サービスを提供するきっかけは。
もともとマネーフォワードには、「これまで提供したことのないサービスを作りたい」という思いを持った金融系出身者が多くおり、「本来こうあるべきもの」という、自分が作り、使いたいものを提供することを考えていました。でも、それではなかなかユーザーは使ってくれません。そこで実際にユーザーの声を聞き、ニーズをキャッチしながら大きくしていった形です。
現在までに大きな変更が3回ありましたが、一番大変だったのは、予算や人がないため、工数をかけられないということでした。どこまで作り込めばユーザーに受け入れられるか、数値を取らなければわからないことが多い状況でありながら、失敗が許される環境ではなかったため、システムのアーキテクチャを考えることから始めました。
例えば、安いシステムやツールを使うことで、コストを下げることに注力しました。せっかくいいサービスを作っても、そのシステムのコストが高くてサービスを継続できないようでは本末転倒です。また、フリー(無料)の機能をできるだけ多くしていくわけですが、そのバランスを取るのが難しいです。サイジングも常に意識しながら、当初の設計で足りなくなると追加したりと、自転車を漕ぎながらスピードをなるべく落とさずに(新しい車体に)乗り換えるような感じでやってきました。数カ月でなくなる機能もありましたが、スピード感を持って対応できたという気持ちはあります。
--サイジングについて、Amazon Web Services(AWS)などパブリッククラウドは最初から使っていたのか。
はい、使っていました。前職の金融業では、オンプレミスでガチガチにシステムを組むということが基本でした。そのため、最初にサイジングをミスすると致命的でした。特に、データベースのストレージサイズの計算を間違うと、何千万円という追加コストがかかってしまいます。余裕を持って設計した結果、ビジネスとして盛り上がらなかったときに負債を抱えてしまうことも大きかったですね。
ハコモノを最初に買わなければならず、それがビジネスに影響するという面で、厳しい勝負をずっとしてきました。そのため、自分でシステムをいちから設計して作るときには、基本的に資産を持たない形で月額制で提供されるようなシステムを使っています。
その上で、AWSとレンタルサーバのそれぞれにいいところがあるため、それらを適材適所でうまく組み合わせて使えればいいと思っています。また、サービス開始の時には月額料金の安いもので済んでいても、ユーザーが多くなるにつれて容量も必要になってきます。そこで、走りながらアーキテクチャも変更し、サーバやインスタンスも大きくしていきました。
スモールスタートから実需に応じて大きいものに切り替えていく。それがパッとできる。今どきのインフラは、広い意味でのクラウドで実現できます。今と同じビジネスを10年前にやろうとしてもできなかったでしょう。そういう点では、スタートアップやベンチャーにとってインフラが安価ですぐに始められて、足りなくなったらすぐに大きくできるという仕組みがそろっているのは、いい時代だと思います。