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三国大洋のスクラップブック

『マネーボール』か『1984』か--ビッグデータとフィットネストラッカーの倫理 - (page 2)

三国大洋

2014-11-24 08:00

 この記事には、石油大手のBPが米国の拠点で働く約1万4000人の従業員、6000人の配偶者、4000人の退職者に万歩計(Fitbitの「Zip」という製品)をタダで配り、集めたデータを医療保険料の抑制に役立てている、などとある。やはりForbesで6月に公開されていた別の記事には、AutodeskでもBP米国支社と同様の試みが実施されていたとある。

 ちなみに、BPでは「年間100万歩以上歩いた従業員の保険料が割引になる」といった仕組みが導入されているらしい。従業員に対して、BPのような積極的なインセンティブ(アメ)を与えるのがいいのか、それとも何らかのペナルティ(ムチ)を与えた方が全体の仕組みがより効果的になるかといった議論も行われているという。

 こうした動きの背景にあるのは、Obama政権の医療制度改革(Obamacare)の影響で生じた健康保険料の大幅な上昇、同改革で医療費の重点が病気の治療から予防に移ったという変化…。

 その詳しい説明は割愛するが、Forbesの後者の記事には、日頃の運動不足や栄養の偏った食事などで肥満や糖尿病になる人が少なくなく、現在年間2兆6000億ドルにもなる医療費の大半がそうした日頃の不摂生から生じた病気の治療に使われているといった記述や、すでに複数の保険会社が保険料を計算する際にBMI(ボディマス指数)の数値を利用しているといった記述もある。

 こうした話から読み取れるのは、特に気前のいいAppleのような会社でなくても、従業員にセンサを内蔵したウェアラブル端末を無料配布する、あるいはWatchのような比較的高価な製品では購入補助金を出すといったことに対する施策に関する十分な動機付けが存在しているということだろう。

政府機関でも実験

 10月末に出ていたBloomberg記事によると、米連邦政府の保険福祉省(Health and Human Services:HHS)で今夏に職員のモバイル端末とビーコン(Bluetooth LEを利用する、AppleのiBeaconやそれに類するもの)を組み合わせた健康増進の実験プログラムが実施されていたという。

 具体的な仕組みは、建物内の各所に設置したビーコン端末で各人の動きを把握した上で、たとえば会議室で長い時間を過ごした、つまり活動量が少ない職員には「自分のデスクまで遠回りして戻った方がいい」とか、逆に水飲み場を何度も通過した職員には(活動量が多いと判断して)「一休みしてはどうか」といったメッセージが送られる、というもの。集計したデータをもとに「オフィス内で誰が一番健康的に過ごしていたか」を示すスコアボードを設けたりもしていたらしい。

 この記事にも、BPのフィットネストラッカーを使った試みや、特に米国で著しい医療費の負担増加についての言及がある。

 この実験の結果に気をよくした同機関では、今後さらに意欲的な仕組みを導入する考えを明らかにしており、たとえば職員に(エレベータではなく)階段を使うように奨励するとか、職員のスマートフォンから活動量に関するデータを収集するといったことも視野に入れているという。

 「デスクに長時間座りっぱなしだと寿命が縮まる」といった研究結果が何年か前に発表されていたことも思い出されるが、そうしたことも考えあわせると、たとえば「今日は根を詰めすぎのようです。少し休んで、歩きましょう」といったアラートが職員の端末に飛んでくるようになるのも時間の問題かもしれない。

 また、下掲の動画――9月にあったAppleの製品発表時のもの。Watchのデモを含む――をみると、Appleでもよく似た発想で作った機能をWatchに持たせようとしていることがわかる。あくまで「ユーザー本人の自発的な意思に基づいたもの」という前提だろうが、人によっては“余計なお節介”と感じる場合もあるかもしれない。


[Apple--September Event 2014]
(1時間32分あたりからApple Watchとそれに連動するFitnessやWorkoutといったアプリ類の詳しい説明がある)

 こうしたデータが、本人の健康管理増進とそして勤め先のコスト削減に利用されている分には特に害もないかと思えるが、しかし、その同じデータが「生産性向上」あるいは「能力アップ」といった大義のもとで、従業員のプライバシー侵害や搾取につながりかねない監視行為に容易に利用されるリスクがある点も見逃せない。

 早い話が、従業員の寝起きする時間、勤務中や勤務時間外の活動量といった情報までが雇用者側に筒抜けになり得る、ということだ。自分が他者を雇う立場にある人にとっても、「どこまでやるべきか」という線引きを考える必要は当然生じてくる。この種のデータ活用に対して、従業員から“やり過ぎ”と反発の声が上がったり、あるいは優秀な従業員(働く場の選択肢が多い人材)の離職といったリスクが考えられるからだ。

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