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三国大洋のスクラップブック

『マネーボール』か『1984』か--ビッグデータとフィットネストラッカーの倫理 - (page 4)

三国大洋

2014-11-24 08:00

 「ビックデータは怖い。なぜなら、自分のデータがどこで使われるか、誰の目に触れるかがわからないからだ」などとこの記事でコメントしているのは、昨シーズン終了後に現役を引退し、今シーズンからはESPNのキャスターに転じているShane Battier。

 学生時代にNCAAトーナメント(全米の有力大学チームが戦うトーナメント、日本の甲子園に相当)でチーム(名門のデューク大学、バスケットボールでも強豪校のひとつとして知られる)を優勝に導き、その年の最優秀選手にも選ばれていた、そしてNBA現役時代もある種の“知性派選手”として通っていたBattier――「単純な数字には表れにくいけれど、重要な働きをする名脇役」として『Moneyball』著者のMichael Lewisにかつて取り上げられたこともある選手であることを考えあわせると、この発言は一層大きな重みをもつようにも感じられる。

 ビッグデータというと、これまでは外部の事象――たとえば、消費者の購買行動などを対象にしたものが話題の中心になってきていたかと思う。だが、アクティビティトラッカーのような“センサの塊”ともいえる端末=データ収集の手段がこの先普及すると、その活用の対象が企業の内側=従業員に向かう可能性も十分に考えられる。特に生産性向上が(製造業の現場に比べて)遅れているとされるホワイトカラーの場合には、そうした方面に何らかの手がかりを求める経営者も出てくるかもしれない。

 Watchに関して、米公正取引委員会がAppleに聞き取りを始めているとされる類いの事柄は「外部」を対象にしたもの――たとえば、ユーザーの健康情報などが本人の同意なしに第三者の手に渡らないようにするためにどういった手段が講じられているか、など――であり、早晩何らかのガイドラインが示されることも期待できる。

 ただ、その「第三者」に雇用主が含まれるかどうかまではわからない。まして、前述したBPの場合のように、雇用者側が端末を支給して……という場合には、メーカー側からすれば、実際に製品を購入する企業側を第三者と割り切ることも難しいのではないか。

 かつて、ネットと特にメールの普及でオンとオフの境目が曖昧になった。携帯電話やスマホの普及でその境目は一層曖昧になり、さらに時々の居場所まで(やろうとおもえば)把握できるような状態になった。Cookのいう「これまでに作った中で最もパーソナルな端末」であるWatchやそれと同等(以上)のデータ収集機能をもつ競合製品の登場は、裏を返せば、これまでになかったようなレベルのパーソナルな情報が他者に筒抜けになるというリスクもはらんでいる、ということでもある。

 そうした新たな製品のもたらす利便性と引き替えにユーザーはどんな代償を支払うことになるのか、また雇用者と従業員との間ではどんな形の落としどころを見い出せそうか…。フィットネストラッカーやスマートウォッチといった製品群がまだ本格的に普及すると決まったわけではないが、こうしたトレードオフや線引きの問題というのは頭の片隅に入れておいて損はない事柄かと思う。


[Apple Watch Is Most Personal Device We've Created:Tim Cook--Bloomberg]

(敬称略)

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