次に、銀行、保険、新興インターネット企業における、ビッグデータ活用の実例を紹介する。
CITIC銀行のクレジットカード事業に貢献
2010年、中国のCITIC銀行は、ビッグデータ活用により、クレジットカードの顧客ニーズに基づくターゲットマーケティングの効果を、より高める可能性を見出した。
CITIC銀行は、EMC Greenplumを活用したデータウェアハウスを構築し、2013年までには自社のすべてのビッグデータを再構成し、網羅的な顧客プロファイルを完成させた。このデータベースは「天網」「地網」と呼ぶ2つのコンポーネントからなる。
天網コンポーネントはオンラインの取引履歴や、顧客のリスク嗜好(しこう)性、ソーシャルネットワークでの活動など顧客のオンラインでの行動履歴を収集する。地網コンポーネントは取引履歴や滞納情報、居住情報などを含む顧客の基本的な情報を収集する。
中国の一般的なクレジットカード会社の審査では、年収や雇用主などの比較的単純なパラメタを利用している。これに対して、CITIC銀行では、顧客のオンラインでの行動履歴をデータベース分析することで、顧客の購買習慣を推測し、新規顧客のスクリーニングに活用できるようになった。
同時に、CITIC銀行は経済情勢とデータベースから、今後の顧客の購買行動や地域経済の動向を、より正確に推測できるようになった。このようにして、新規顧客の購買力ポテンシャルと、潜在的なリスクの双方を把握できるようになり、CITIC銀行はクレジットカードの発行可否を、より正確に判断できるようになった。
緻密なマーケティングで”ホット”な顧客にアプローチ
広範囲におよぶ顧客データを武器に、CITIC銀行は他社ができないような革新的な手法で、顧客にアプローチをしている。例えば、申し込みウェブサイトでは、顧客の資産や職種に基づいて購買力を推定し、推奨するクレジットカードのタイプを分けている。高級住宅地に住んでいるユーザーや、トップ企業に勤めている会社員、企業の役員や高級官僚には、プラチナやプレミアムカードを推奨している。
加えて、天網・地網データベースによって、CITIC銀行のクレジットカードセンターは緻密なマーケティング手法の開発を行っている。この技術でCITIC銀行のマーケティング担当者は、公開情報から顧客同士の関係性を可視化し、ソーシャルネットワーク上で大きな影響力を持つ”ホット”な顧客を特定している。”ホット”な顧客とは、実生活やオンラインのコミュニティーで大きな発言力を持っているコミュニティー形成者である。
これらの顧客に積極的にクレジットカードに関連した各種サービスやその他金融商品を提供することで、CITIC銀行は彼らの輪にいる友人や知人に対しても、接触できる貴重な機会を手に入れることができている。
2013年にこの技術をうまく活用した取り組みとして、スターバックスと共同で実施した9セントキャンペーンがある。背景として、中国では他国よりも高い価格でコーヒーを販売しているとして、CCTVがスターバックスに対して批判的な報道を行い、広報的にスターバックスは厳しい立場に立たされていた。このことがCITIC銀行にとってはマーケティングのチャンスとなった。
CITIC銀行はオンラインのキャンペーンで、スターバックスは高くない、CITIC銀行のクレジットカードで支払えば、1杯9セントで購入できるとした。このキャンペーンは「ホット」な顧客層にターゲットを絞って段階的に行われた。9セントキャンペーンは、まずホットな顧客に提供され、彼らが友人、知人にギフトとして提供できる仕組みで徐々に拡大をしていった。結果的に、この手法は大成功を収め、CITIC銀行はホットな顧客の周りにいる多くの潜在顧客にアクセスし、彼らを取り込むことができた。