IBMリーダーズフォーラム2014東北

Watson×Pepper、崖っぷちベガルタ仙台の取り組みも--IBMリーダーズフォーラム2014東北

怒賀新也 (編集部)

2014-11-28 07:00

 日本IBMは11月26日、日本の主要地域において、各地の経済やビジネスを引っ張るリーダーを集めるイベント「IBMリーダーズフォーラム2014東北」を仙台で開催した。今後、広島、京都、名古屋でも同様の会を展開する。

 「スマートな時代へ――テクノロジーが導く新たな価値の創出」と題し、テクノロジを活用して地域経済の発展を考える会と位置づける。

 この日、日本IBMは海外企業として、欧州の大手自動車会社の取り組みを紹介した。自動車生産の工程で生じるセンサ情報をリアルタイムで監視し、欠陥品を効率良く除外していくというもの。

欠陥品検知のフロー
欠陥品検知のフロー

 生産工程における判断分岐に予測分析の手法を取り入れた。工程に潜在するリスクを事前に検知できるようになり、結果として、3カ月で不良品スクラップ率を80%改善できたという。コスト面では、年間で4.5億円のコスト削減に成功したとのこと。

 工程の局面ごとに、金属を鋳型に流し込むときの速度などによって、不良品が発生する可能性が変わってくるが、従来それはいわゆる匠(たくみ)と呼ばれる職人にしか分からなかったという。センサ情報を分析することで、匠の技をITでも再現できるようになったというのがIBMの主張だ。

変化する消費者の行動パターン

 会の冒頭で挨拶した日本IBMの取締役副社長執行役員の下野雅承氏は、現在のテクノロジを示すキーワードとしてデータ、クラウド、エンゲージメントの3つを挙げた。

 2015年までに1兆台のモノや機器が2015年までに世界中でデータを生成するようになるとした上で、「このデータは何もしなければごみ」とし、意味を見出せた人が利益を得られるとの考えを示す。

 また、クラウドのビジネスについて、自動車会社が自動車を販売するのをやめて、すべてレンタカー会社に自動車を供給し、それを貸し出すサービスに移行しているようなものと例える。さらに、アプリケーションの構築方法が、小さなアプリケーションをRESTなどのプロトコルで組み合わせる手法に急速に変わりつつある、いわゆる「アプリケーション経済」への移行の動きがあることを伝えた。

 「日本人のほとんどが今朝起きて最初にやることは、たばこを吸うことでも何でもなく、スマホでメッセージを確認すること」(下野氏)

 さらに、期待を裏切ったアプリを2度と使わないとする顧客が98%を占めること、ソーシャルメディアで企業に問い合わせてから返信まで待てる時間が5分と言われていることなどを紹介しながら、テクノロジの進展で消費者の行動パターンが、少し前とはまったく異なってきていることを説明した。

 その後のパネルディスカッションでは、こうしたテクノロジがどんな影響があるのか、東北地域の視点から議論された。

 パネルディスカッションには、経済産業省東北経済産業局の局長を務める守本憲弘氏、ベガルタ仙台社長の西川善久氏、日本IBMの取締役専務執行役員エンタープライズ事業本部長の薮下真平氏が登壇。モデレーターを東北大学の理事で産学連携推進本部長の進藤秀夫氏が務めた。


(左から)モデレーターを務めた東北大学の理事で産学連携推進本部長の進藤秀夫氏、経済産業省東北経済産業局の局長を務める守本憲弘氏、ベガルタ仙台社長の西川善久氏、日本IBMの取締役専務執行役員エンタープライズ事業本部長の薮下真平氏

 守本氏はテクノロジについて「社会はテクノロジ以上のスピードで動いているかもしれない」と切り出す。人口が減少する中で持続可能な地域経済の発展をどう実現するか、競合環境の複雑化などをテーマとして挙げた。

崖っぷちのベガルタ仙台

 ベガルタ仙台の責任者になって半年という西川氏は「(11月23日現在14位でJ2降格危機にある)ベガルタが置かれた環境と経営状況に相関がある。J1チームの平均的な収入が年間30億円程度だが、ベガルタ仙台は現在24億3000万円に乗せた状況。それでも、1億円あまりの赤字が出る見込み」と明かした。

 Jリーグのチームは、3年間赤字が続くとライセンスを剥奪されてしまう。また、「債務超過になると1年でアウト」という。現在、ベガルタ仙台は危機的な状況を迎えていると言える。

 西川氏は、試合におけるスタジアムへの集客は大事だが、今後は「集客にとどまらない取り組みが必要」と指摘。サッカーのあるライフスタイル確立、サッカー観戦の質的な向上を目指すことが課題になってくるという。

 そこで、デジタルメディアの活用を戦略上の最重要課題と位置づけた。スタジアムの収容人員には限界がある。「ホームでの入場者数は1万8000人が限度。その意味で、今後はファンクラブの会員数の増加が重要と判断している」と話す。顧客情報を生かして効果的なマーケティングを展開する考えだ。

 具体策を西川氏は2つに絞って説明した。1つは、Jリーグが来期から「トラッキングシステム」を導入することに関するもの。グランドの脇に数台の特殊カメラを設置し、選手とボールの動きを把握してリアルタイムで情報を加工して配信できるようにする。

 これにより、選手の走行距離、速度、プレーエリア、連動の仕方などをコンピュータグラフィックで把握できる。この情報をスマートフォンにも流せるため、スタジアムにWi-Fiを整備するという。

 スタジアムのWi-Fi化はプロ野球の西武が既に実現していることが知られている。会場でさまざまな情報を交えてサッカーを観戦できるようになるのがメリットだ。また、テレビでも同様のデータを配信すれば視聴者がより楽しめるようになるとする。一方で、走行距離などもリアルタイムで公開されるため、選手のプレーの質的な向上も期待できると西川氏は指摘した。

 このほか、ベガルタ仙台を通じて地域の店舗を紹介し、街の活性化を促す「ベガルタウン」の強化も本格化する考えだ。

 「ベガルタ仙台の取り組みの大前提はJ1残留」と西川氏。経産省の守本氏は「今週末の11月29日に、ホームでJ1残留をかけた大事な試合があるのでぜひスタジアムに行ってほしい」と呼び掛け、会場から笑いが起きていた。

「IBM銀行のWatson」

 展示会場には、ソフトバンクのロボット「Pepper」とIBMの認知型コンピュータ「Watson」を組み合わせたシステムのデモが紹介されていた。

 Pepperが銀行の窓口に立っているという想定で、投資信託の取引やリスクについて説明するという内容だ。Watsonについては、今後さまざまな業種での利用を想定しており、ユーザー企業とともに可能性を模索している。IBMは、このデモのような銀行窓口での顧客対応などを、有力な利用方法の1つとして想定している。

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