そんな無茶な話が実現するわけがないとお考えの読者も存在すると思うが、徐々に片鱗は見え始めている。例えば、ワークスタイル変革のプライベートセミナーをIT、オフィスファシリティ、コンサルティングの3社合同で開催しているケースがある。
部分的には競合関係にあるにも関わらず、だ。このケースは相互に顧客基盤を拡大できることや、自社の不得意領域に無理に手を出さなくて良いというメリットがあっての協力関係だろう。しかし、顧客に対する提供価値は非常に高く、All-Winなビジネスモデルである。
また、最近ではクラウド事業でのMicrosoftとIBMの提携やOracleとSalesforce.comの提携が記憶に新しい。例え競合であっても顧客の価値のためならば手を結び、All-Winのビジネスモデルを模索するのは世界的なトレンドなのだ。
「オーケストレーション」が鍵を握る
これまで論じてきたことをまとめると、社内においてはリソースと権限を与えられた専任部隊を、社外においてはベンダーや協力会社と共創関係を、ということになる。しかし、これだけ社内外に関係者が多くなってくるとあちこちで利害関係が生まれ、まとまりのない状態に陥ってしまうリスクがある。これははこのワークスタイル変革組織体制論の最大のリスクだ。
リスクに対処するには、変革の主体である企業がどれだけ「調和を取ること(オーケストレーション)」ができるかが鍵を握るだろう。オーケストラの指揮者のように、全体を取りまとめていくケイパビリティ(組織的能力)を得る必要がある。もし自社にそのようなケイパビリティがない場合は、コンサルティング会社などを一時的に利用する手は有効だろう。ただし、あくまで一時的な処置であって、最終的には自社のケイパビリティとしてしっかり保有することを推奨する。
今回は連載の主旨であるデジタルバリューシフトからやや離れ、ワークスタイル変革を推し進める組織論について詳細に考察した。実はこの考え方はワークスタイル変革に留まらず、自社が継続的に競争優位を保つ取り組みとして汎用性が高い。デジタルバリューシフトを起こすためにも必須の取り組みであるので、第4回連載のテーマとして取り上げた次第だ。
次回第5回はデジタルバリューシフトにやや論旨を戻し、デジタルが持つ価値がワークスタイルにどんな影響を与えるかについて、先駆者との対談という形をとる予定だ。
- 林 大介
- シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス マネージャー 電機メーカのエンジニア、通信システムインテグレーターのセールスを経てコンサルティングの道へ。ネットワーク、モバイルを中心とし た戦略立案、新規事業開拓、テクニカルアドバイザリーを中心としたプロジェクトを多数実施。昨今はクラウド、M2M、IoT/IoE などの技術トレンドを背景にしたワークスタイル変革に注力し、変革実行支援やソリューション販売支援などを手がける。