展望2020年のIT企業

最も影響力があるのは「まだ見ぬ新興ベンダー」--日本のIT企業を待つ未来とは - (page 2)

田中克己

2014-12-10 07:00

迫られる構造改革

 IT企業の業績も伸び悩んでいる。富士通はピーク時に比べて約1兆円、NECは2兆円超も売り上げが減っている。不採算事業の売却もあるが、稼ぐ力が弱まっている。営業利益率5%未満の受託ソフト開発会社も多く、不採算プロジェクトが発生したら赤字転落というぎりぎりの経営状態で、新しいことに果敢に挑戦するのは難しいだろう。

 海外の製品やサービスをベースにビジネス展開する理由は分かる。だが、古典的な請負開発の価値は間違いなく低下している。受託ソフト開発会社だけではない。パッケージソフトベンダー、日本のIT産業の頂点に立つハードやソフトなどを開発、製造する大手ITベンダーも新しいビジネスや市場の創出に向けた改革に取り組まなければ、日本のIT産業は国際競争力を失うことになりかねない。そのことが、日本企業の国際競争力や生産性に影響を及ぶす。

 一方で、クラウドやモバイル、ビックデータなど新しいテクノロジを生かしたビジネスや市場が次々に創出されている。こうしたテクノロジーは市場参入のハードルを低くし、多くの産業で変革を起こしている。IT産業も例外ではない。IBMやHPなど伝統的なIT企業から、GoogleやAmazon、Appleへとリーダーが移り変わろうとしている。


 次なるリーダーも生まれるだろう。Gartnerが2013年10月に発表した「過去10年と今後10年で影響力のあるITベンダー」によると、今後10年に最も影響力のあるのは「まだ見ぬ新興ベンダー」と回答した世界の最高情報責任者(CIO)が最も多いそうだ。IBMやSAP、Oracle、Cisco Systemsなど伝統的なIT企業ではない。GoogleやAppleなどよりも、もっと革新的な製品やサービスをつくり出す新興IT企業の登場を期待しているのだ。

 日本のIT企業にもチャンスはある。大手IT企業を頂点にする階層構造を維持し、さまざまな問題の解決を先送りしてきた。一方、少子高齢化、エネルギーなど社会や企業の抱える多くの課題は10年以上前から分かっていること。いろんな人たちと手を組んで、そんな課題の解決策を見つけ出す。

 オープンイノベーションなビジネスを共有したり、例えば製造業からサービス業への構造変革を支援したりもする。産業戦略研究所の村上輝康代表は「IT産業からST(サービステクノロジー)産業になること」と表現する。日本のIT企業は大きな転換期を迎えている。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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