今回は、少し角度を変えて、日本でのIT市場の分析から入ります。
SE人口の深刻な不足状態
日本のIT業界は、独特な構造であり、システムインテグレーター(SI)によって支えられる、製品やサービス中心の業界であるという認識です。この市場構造は、ユーザー企業主導の傾向が強い欧米のIT市場とよく比較されます。
特に北米の市場では、ユーザー企業がもつIT組織は、自社の競合力を高めるための重要な要素として捉えられる傾向が高く、ITによる優位性がビジネスにとって大きな要件であるという今日のトレンドにならっているといえます。これについては、後ほどくわしく分析します。
日本の最近のSI業界は、マイナンバー制度の導入に伴う全国の事業体でのプロジェクトなど大型案件が市場を支えており、さまざまなIT系の情報誌などでも80万人いると言われているシステムエンジニア(SE)人口が、全く足りていないという指摘、いわゆる「2015年問題」も見られます。
質による改善が必要
2015年問題を議論する記事のほとんどは、ITエンジニアの不足をいかに解消するかという量の課題に対して言及しているようです。もちろん、ITエンジニアの数を増やせば、直近の問題の解決方法になるのは自明です。ただ、それには限界があるからこそ、この問題が表面化していることもよく認識する必要があると思っています。
筆者はこの問題を、量で解決できなければ、質の向上で取り組むべきと強く提言します。北米の市場の過去5年間の動きを見ると少しそのアイデアが見えてくるのではないかと思います。
Keynote at CloudExpo and DevOps Summit 2014, Silicon Valley
北米の市場も、ITの人材不足が社会的な問題として取り上げられています。北米では長年、積極的な移民政策を通してこの人材不足を解消してきました。シリコンバレーの人口構成を見ると明らかです。面白いことに、このような多民族国家による業界構成は、先進的な技術や新しいビジネスモデルを生む要素にもつながっているとも解釈できます。このあたりからも量だけではなく、質による問題解決の糸口も見えてくるわけです。
ITエンジニア人口の不足がイノベーションの原動力
北米市場のIT業界は、こういった環境の中から、イノベーション(もうこのシリーズで何度も使っている言葉ですが)を生んでいるといえます。
この図でもわかるように、このシリーズのテーマでもある、クラウドも含め、昨今のIT業界を賑わしている新しいキーワードの多くは次の共通な面を持っています。
- 開発者の視点から見たイノベーションであること
- 新興企業、もしくはオープンソースのコミュニティから生まれていること
これは、明らかに今までのIT業界の大手ベンダーがけん引した、ビジネスマインドの強い、IT運用管理部門指向の製品やサービスとは異なる動きです。
ここで最も大事なのは、こういったマクロな変化に対して、クラウドという新しいトレンドの捉え方を正しく理解し、実践することだと感じています。
具体的に言うと、クラウド(ビッグデータ、モバイル、SNSもしかり)を、単独の技術コンポーネントとしてみるのではなく、より総合的な観点で評価し、どのように導入すべきかを決める必要があるということです。