新しいITは新しい組織で
夏ごろになりますが、Gartnerでこの次世代IT時代への取り組みとして、企業に対して、「Bi-Modal IT」の提唱を始めました。簡単に言うと、クラウドやモバイル、ビッグデータ、ソーシャル、といった次世代のIT技術は、従来型のITとあまりにも違うため、社内での戦略策定、導入、構築、運用などすべてを完全に別の組織を作って取り組むべきであるという内容です。
今までのITの歴史をたどると、従来の技術を基盤として形が変わったり、新しい層が上に乗ってくるという方式が長年続いていました。そのため、IT業界も市場をけん引するベンダーの構成はさほど大きな変革を受けずに半世紀程たってます。それが、昨今のクラウドコンピューティングの登場、アジャイルなソフトウェア開発手法の浸透、そしてオープンソースの汎用化に伴い、全く新しいIT企業が市場をけん引する市場に急激に変わりました。クラウド業界を牽引しているのは、Google、AWSなど、創業してから5~10年以内の企業が多いのは周知の事実です。
このように、業界全体のベンダー構成が大きく変わりつつある中で、IT自体の考え方も変わってくるのも、意外と自然な流れ、と解釈すべきなのかもしれません。Gartnerの視点は、製品やサービスを提供するベンダーが変わっていることも、Bi-Modal ITといった新しい取り組みを提唱する理由として考えているのかもしれません。
Bi-Modal ITというのは、簡単に言うと、ITの取り組み方を大きく2つに分ける必要がある、ということです。従来型のITは長年培ってきたノウハウが生き続けるITの領域で、その歴史の中で証明された、どちらかというとセキュリティ、コンプライアンス、信頼性を重視したIT手法です。当然、企業の中でもこのIT手法を運用するノウハウは蓄積されており、今後も伸び続ける領域と言えそうです。
一方、もう一つのIT領域は、アジャイル型ITと呼ばれ、新しい時代のモデルとして、従来型のITと対比的に定義されています。クラウドやモバイル、ビッグデータ、ソーシャルなどの新興技術を中心に、戦略性が高く、スピードを非常に重視したモデルです。
奇しくもこの2つの領域は、前半で説明した、レガシー型ITモデルと、次世代型ITモデルの対比と同じです。ただし、Gartnerが強く推奨しているのは、企業の中での、この2つのモデルに対する組織としての取り組み方です。
Gartnerは、この2つの領域を戦略的に共存させる必要性は述べつつも、それぞれの戦略を全く別建てで推進する必要がある、と主張しています。上記のDevOpsの問題の解決方法の1つとして、従来型ITと次世代型IT、それぞれを運用する組織を作り上げ、企業のさまざまなITプロジェクトを振り分けていく、という仕組みを企業内に作る、というのもGartnerのレポートで説明されています。
ここまで来ると、クラウドコンピューティング、というのは一過性の技術ではなく、企業のIT戦略を推進する体制に対しても影響力を及ぼすパラダイムシフトであるとわかってきたのではないかと思います。
- 鈴木逸平
- 現在、日米クロスボーダー事業を専門とするコンサル企業、Suzuki Consultingを立ち上げ、北米ハイテク企業の日本進出のアドバイザリー業務を展開。対象分野は広く、クラウド、ビッグデータ、アナリティクス、 IoTなど、次世代ITの先進技術を発掘し、誰よりも早く日本市場に展開できる事が強み。頻繁に日本出張する傍ら、普段はCA州に在住し、北米IT企業との強いネットワークを維持している。