2013年6月から2014年の7月の一年にわたり、「通信のゆくえを追う」というテーマで連載コラムを書かせていただいた。
おかげさまで好評をいただいたが、一方で、通信事業者や端末メーカーやコンテンツプロバイダーなど、サービスや製品を提供する立場に主眼を置いていたため、「通信サービスの利用形態が、これまであるいは今後、どのように変遷していくのかという視点があればもっと興味深かった」という声もいただいた。
なるほど、もっともな指摘であり、今やどのようなシーンにおいても情報通信から離れることはできないと言っても過言ではないくらい、情報通信技術(ICT)は生活に密着したものになっている。そう考えると、利用者の視点がなければ不十分と言える。
ICTの新たな使い方を考察
そこで、今回から情報通信サービスの利用について思うところをコラムとしてお届けしたい。あらゆる生活シーン、あらゆる産業で情報通信サービスが利用されている。
それこそ、朝起きてから夜寝るまでスマホが手放せないという方も多いのではないか。あるいは睡眠中でさえも、その睡眠の「質」をモニターするアプリケーションを利用している方もいるだろう。
また、一見したところ情報通信の利用から遠いと思われている産業であっても、その裏ではICTに依存していたり、あるいはICTの利用でその産業分野の新たな成長が期待されていたりということがある。
せっかくの機会なので、一般にはあまり目に触れない使われ方、今後成長が期待できる使われ方にフォーカスを当ててご紹介できればと思う。
農業とICT
第1回目となる今回は、第一次産業、すなわち農林水産業におけるICTの利活用について考えてみたい。農林水産業、中でも農業へのICTの利用というのは、実のところ既にかなり期待が高まっている分野である。
例えば2013年5月に自民党から発表された「新たなICT戦略に関する提言 デジタル・ニッポン 2013」でも取り上げられており、また、2014年の情報通信白書においても第二節「ICTのさらなる利活用の進展」において、いくつかの事例が紹介されている。さらに、九州地域における農業の成長産業化、という視点で日本政策投資銀行からも「課題と展望」が示されており、耳目を集めている。
これに対し、ソリューションを提供する側としては、NECや富士通などが、さまざまな製品やサービスを提供し始めており、今後もさらなるICT利用が期待できる産業と考えられている。
いずれにせよ、日本の農業を成長産業と位置付け、それをサポートするICTの利活用という視点で語られている。具体的にどのような形でICTが農業に利活用されているのかを見てみよう。
最も分かりやすい例はe-コマースであろう。オイシックスを中心に、生産者と消費者を直接つなぐサービスが提供できるようになったのはICTが発達したからにほかならない。さらに踏み込んで、農業そのものの産業構造的な課題を考えてみよう。
自然環境の影響を受けやすいこと、消費者がこれまでに以上に安心、安全を求める傾向が強まっていること、労働集約的な産業であることなどが挙げられる。