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クラウドソーシングでシステム開発のアピリオ--70万人の智恵を生かす - (page 3)

大西高弘 (NO BUDGET)

2014-12-18 07:30

常識にとらわれない発想を武器に、発注者が驚く成果を

 アピリオに仕事を発注する企業はさまざまで、中にはNASAなどのような政府機関からも依頼がくるという。前述したように従来の方法でアウトソーシングするよりも、コストが低くて済み、さらに成果のクオリティについても、コミュニティ内とアピリオ自体による厳しいチェックがなされることもあって、高い評価を受けることも少なくないという。

 例えば、米ハーバード大学医学大学院は、遺伝子解析プログラムのパフォーマンスをアピリオのtopcoderを使って劇的に改善したという。当初の遺伝子解析プログラムは、10万の遺伝子情報を解析するのに2000秒を要していたが、ハーバード大学の技術者が1年をかけて上記のプログラムのパフォーマンス向上を測り、2000秒を400秒にまで短縮した。


 これだけでもすばらしい成果なのだが、topcoderで2週間のパフォーマンス向上コンテストを実施した。そして2週間のコンテストの結果、400秒を16秒までに短縮することに成功したという。この結果について、ハーバード大学医学大学院の教授は、「期待を大きく上回る結果を出した」と正式にコメントをしている。ちなみにこのコンテストに参加したのは733人で、そのうち122人が問題なく動作するプログラムを提出したという。

 最初に遺伝子解析プログラムのパフォーマンス改善に取り組んだ技術者はハーバード大の技術者というから、おそらくこの遺伝子解析プログラムについて精通した人物だろう。大規模解析システムの改善をまったく外部の技術者に任せるとは考えにくい。しかし、その技術者が1年かけて取り組んで出した成果を悠々と超えてしまうプログラムを、アピリオのコミュニティの技術者はわずか2週間で仕上げた。

 これは、単純にハーバード大学の技術者よりもアピリオのコミュニティメンバーの方が優れているということではないだろう。この例に似たようなことはたびたび起こるとバービン氏は話す。

 「特定のシステムに対してずっとかかわっていると、どうしてもある種の固定観念が定着してしまうものです。一種の常識のようなものですね。ただ、システムパフォーマンスを飛躍的に伸ばすと言った場合、こうした常識が邪魔になってしまうケースが多々あります。イノベーションを起こすには、有能だが常識にとらわれない発想が必要なのです。当社に依頼をしてくる顧客は、こうしたイノベーションを起こすことを目的に仕事を発注してこられるケースもあるのです」

 実際、大手企業などはモバイルアプリ開発の発注にこうした常識破り的なものを期待しているケースがあるという。社内で開発していると、定着してしまった業務の常識が邪魔をして、競合企業のものと変わらないアプリばかりができてしまうのだという。

 固定観念や常識にとらわれることほど、イノベーションを疎外するものはない。しかし、ともすれば企業組織では、常識の範囲内の発想でイノベーションを起こそうしがちだ。この矛盾に気付いた企業にとって、アピリオのような企業はシステム開発のコスト削減以上の成果を期待できる存在になるのだろう。

 多くのITベンダーは、独自の製品、ソリューションで顧客をつかみ市場を切り拓いてきた。アピリオにとっての武器はコミュニティ登録者と彼らを仕事に応じてコーディネートする能力ということになる。

 一般のITベンダーの成長の仕方に則して考えると、今後アピリオは、積み上げていく成果の中から独自の製品、サービスを組み上げていくのではないか。あるいは、登録者が開発した技術をビジネス化していくためのインキュベーターとしての役割を担うようになるかもしれない。

 ITベンダーやシステムインテグレーターが特定の顧客へのサービスに徹しながら、エンジニアを数十人から数百人へと増やしていく中で、独自の汎用的なソリューションを生み出す例もある。70万人のコミュニティメンバーの常識にとらわれない発想を結集すれば、これまでにないITサービスが生まれるのではないか、アピリオは、そんな期待を抱かせる企業だといえる。

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