「逆オイル・ショック」の懸念
今年の世界経済は、原油急落によって大きな影響を受けそうだ。原油急落は、最終的には世界景気拡大に寄与するだろう。ただし、短期的には原油急落によって世界景気がかえって悪化する可能性がある。原油価格の下げが速すぎる場合は、プラス効果よりもマイナス効果の方が先に顕在化するからだ。
長い目で見れば、日米欧先進国は、原油下落の恩恵を受ける。世界中の天然資源を大量消費してきた中国やインドも、エネルギー輸入コストが低下する恩恵を受ける。
ただし、原油急落のピッチが速すぎるので、先進国でもメリットよりデメリットが先に出る可能性がある。米国では、シェールオイル・ガス採掘業者の財務悪化が問題となりそうだ。中国でも、石炭など資源開発業者に悪影響が及ぶ。
原油下落の恩恵が大きい日本でも、すぐにはメリットが出ない。日本には原油の戦略備蓄があるからだ。原油価格が高い間に輸入した高値在庫が一巡するまで、原油下落の恩恵は出ない。
一方、ロシア、ナイジェリア、ベネズエラ、中東産油国など原油やガスの輸出に依存してきた国には、ダメージが及ぶ。ベネズエラは財政悪化で信用不安が発生する可能性がある。
原油だけでなく、石炭や鉄鉱石など資源全般に下落が波及しているため、ブラジルやオーストラリアなど資源に依存してきた国は、全般に景気が悪化する見込みだ。
<参考>逆オイル・ショックとは
「逆オイル・ショック」は、1986~87年頃の世界経済を表す言葉として使われたのが最初だ。1970年代は原油価格が急騰して世界不況になった。これが「オイル・ショック」だ。1980年代は一転して原油価格が急落した。ただし、原油下落の恩恵はすぐには顕在化しなかった。
一方、オイルダラーが減少し、中東からのプラント受注が大きく減少するなど、中東ビジネスが急速に悪化した。原油急落でかえって世界景気が悪化したという意味で、1987年頃に「逆オイル・ショック」といる言葉が使われた。
ただし、後から振り返ると、逆オイル・ショックは一時的だった。1988年以降は、原油下落の恩恵で先進国の景気が改善した。特に、日本はバブル景気と言われる内需急拡大期に入った。当時、日本のバブル景気を生んだのは「原油安・円高・金利低下のトリプル・メリット」といわれた。