では、消費者の「モバイルモーメント」を勝ち取るために、どうすればいいのか。Ask氏は次のポイントを例とともに挙げた。
・購入活動を加速
ユーザーの購入を促す仕掛けを考える。例えば、ワインのECサイト「WTSO」は、セールが始まるとプッシュ通知する。このような仕掛けは衝動買いを加速するという。
・利益の最適化
需要と供給が地理的に分散している場合、モバイルにより供給は需要に物理的に近づくことができる。さらには価格もマッチさせることで、需要を変えることができるという。好例はタクシー配車サービス「Uber」だ。
・新しい収益チャンスの創出
新しい収益を生むサービスを考える。たとえば、モバイル端末と連動するヘルスケアデバイスの場合、アプリで心電図などのヘルスケアデータの結果を緑、黄色、赤で評価するが、もっと専門的で詳細な情報が欲しいユーザーは追加料金を払うと医師による診断を受け取ることができるという。「iTunesのような感覚で医師の診断を購入できる--ヘルスケアの新しい売り方」とAsk氏は評価する。
・物理世界とデジタル世界の橋渡し
モバイルはPC/ウェブとは異なり、物理世界で移動中や外出中もデジタル世界を手にしていることになる。ガテマラのスニーカーショップMeat Packは、GPSを利用して顧客を追跡、ショッピングモールで競合ショップに入った顧客に割引のアラートを送る「Hijack」というアプリを開発した。
99%割引からスタートし、1秒ごとに98%、97%と割引率が下がるという仕組みだ。ローンチから1週間で約600人の顧客を”ハイジャック”できたという。このようなキャンペーンは「モバイルでしかできない」とAsk氏はコメントする。
このほかにも、モバイルは従業員の効率性アップなどのメリットも見込める。Ask氏のアドバイスをまとめると、以下のようになる。
(1)新しいことをする
- ブラウジングではなく、タスク主導で設計せよ
- プロジェクトではなく、ビジネスを変革するものとして利用する
- 履歴データではなく、リアルタイムの状況を利用する
(2)アイデアを活用する
- モバイルモーメントがどこにあるのか、顧客の体験を変革できるのはどこかを認識する
- モバイル担当はマーケティングやEC担当では不適切かもしれない。適切な組織、適切な指標を用いる
- モバイルの分析により、サービスの改善を継続的に行う
(3)エコシステムの構築
- アプリとモバイルサイトを超えたエコシステムを構築する
- モバイルモーメントは「所有する」(アプリ、モバイルサイト)、「借りる」(航空会社が旅行サービスでも予約チェックできるように連携するなど、関連するサードパーティのアプリやサイトでサービスの提供)、「貸す」(自社のアプリやサイトで関連サードパーティのサービスを提供する)の3つが考えられる
モバイルモーメントを勝ち取るには「所有する(own)」「借りる(borrow)」「貸す(lend)」の考え方が必要。航空会社United Airlineの場合、アプリ(own)、旅行サービスTripitでの予約表示(borrow)、空港まで/からの移動手段としてUberの統合(lend)、と3つを実施している
このように、モバイル戦略はビジネスを根底から変える必要があるほど重要なものであって、必要な統合作業などインフラレベルでの変更も必要になる。「1~3年ぐらいの時間と大きな投資が必要」とAsk氏。Forresterでは2017年、1890億ドルがモバイル戦略に費やされるとみるが、時間がかかるだけに出遅れるとさらに損失が大きくなるという。実際、モバイル戦略におけるリーダー企業と出遅れた企業の差は2015年、さらに大きくなるとの予想を示した。