英中央銀行が、今後金融政策の決定にあたってソーシャルメディアの情報を参考にする可能性があるという。つまり、事後的に収集する経済指標を参考にしても、経済の実態に追いつけないということだ。それでも、情報の伝播のスピードということであれば、われわれもそれが金融市場や社会へ影響を与える様を数多く目撃してきた。
しかし、最近では、情報だけではなく実体を伴うネット系サービスのビジネスそのものの展開スピードも尋常ではない。
例えば、タクシー配車サービスのUberは、2009年設立であるが、既に53カ国200都市に展開している。宿泊サービスのプラットフォームであるAirbnbは、2008年設立で、192カ国3万3000都市で宿泊サービスを提供している。ふと気がつけば、知っているというレベルではなく、利用者が、下手をするとサービス提供者が身のまわりにいるという状況である。
いずれのサービスも、既存のビジネスモデルを破壊するエネルギーを有しているだけに、同時多発的に既存事業者との対立や規制当局との対立を引き起こしながらも、その利便性から多くのユーザーを獲得している。
あたかも、遠く雨だと思っていたら、あっという間に目の前にやってきて、爆風に煽られ、豪雨でびしょ濡れという感じである。
The Economist誌に面白い記事があった。言語の影響力を測定する方法として、言語と言語のつながりに注目するという研究に関するものだ。そのつながりの調べ方はこうだ。
第一に、ある言語で書かれた書籍がどの言語に翻訳されたのか。第二に、Wikipediaに掲載された情報がどの言語に翻訳されたのか。第三に、Twitterのつぶやきがどの言語に翻訳されたのか。
これを視覚的に表現すると、書籍の翻訳では英語、フランス語、ロシア語など複数の言語がハブとなって、いろいろな言語へつながっていく。しかし、これがWikipediaになると個々のハブは急速に小さくなり、Twitterに至っては、ほぼ英語一極集中となる。
ビジネスのグローバル展開も従来であれば、北米からまずロンドンへ行って、ドイツから欧州に展開し、アジアはまずシンガポール、そしてシドニーをハブにして、最後に東京へ、みたいな感じであったのが、今やサービス型のビジネスに関してはグローバル一挙展開が当然のように行われる。まるで、言語の持つ伝播の仕方と同様である。
ネット系のサービスが国境を跨いでグローバル展開を実現すること。それ自体は、過去10年以上に渡ってAmazon.comやGoogleやFacebookを使いながら実感してきたことだ。
これら1990年代から2000年代に始まったサービスも、そのビジネスモデルの新しさ故にあらゆるところで摩擦を引き起こしてきたし、その展開のスピードをわれわれは早いと感じてもいたはずだ。しかし、それを見てきた上での新しいサービスはもっと激烈だ。
異常気象に関しても、われわれは大雨や暴風に遭遇すれば、その都度温暖化の影響を感じていたものであるが、今や、吹けば爆風、降れば豪雨、釣れれば大漁だ。しかし、もはや激烈なのは天候だけではないことを今年は覚悟しよう。でも、天候とビジネスの違いは、こっちからも爆風と豪雨を引き起こせることだ。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。