部品メーカーの位置付けに
インフラへのIT活用には、先駆的なモデル作りがいる。「人がまじめな地域(国)と、環境の悪い地域で実施しやすい」(桑津氏)。前者の代表が日本だろう。列に並んで電車に乗る。割り込みをする人は少ない。電車も時間通りに到着する。1分遅れたら、車掌が「申し訳ありません」と車内放送する。野外に設置されている自動販売機が壊されることもめったにない。
社会インフラにITを取り込むうえで、日本のポジションは悪くない」(桑津氏)ということ。日本にしかできないモデルを考え出し、社会のあるべき姿を模索する。
こうした社会課題の解決に企業は深く関与していく。手術用の医療ロボットやオランダの植物工場はその1つである。全世界を1つの市場ととらえて、そこから得られるデータを一手に蓄積、解析する。データが増えれば増えるほど、手術の精度が上がり、野菜の生産性が向上する。ただし、関連の機器やプラントを販売するが、中身を明かさない。ブラックボックス化するのは、他社の追随を許さなくするためでもあるだろう。
実は、日本にも進んだ事例がある。建設機械メーカーのコマツが販売する重機にGPSを取り付けた稼働管理システムだ。遠隔地から車両の位置や稼働状況を把握し、部品交換など保守の効率化、需要予測などに生かしている。「全世界を1つに束ねる」(桑津氏)とのことで、市場は大きくなる。
もちろん、テクノロジは重要である。多くのものは標準化されて、みんなが使えるものになる。例えば、通信の世界は4Gから5Gへと進化するだろう。ムーアの法則から次に実現すべき半導体の性能はみえている。標準化されていくものに投資するのか、ニッチなものに投資するのか。「小さなIT企業が先端的なテクノロジを開発したら大手がそれを吸収していく」。桑津氏はそんなパターンになると予想する。ITはツールなのである。
このように自動車や電機、機械などのセットメーカーが課題解決に向けてITを活用する。そこに必要な部品を供給したり、IT活用を支援したりするのがIT企業の役割になる。そして部品メーカーは、築いた仕組みをセットメーカーと一緒にグローバル展開する。桑津氏が予想する数年後の日本のIT企業である。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。