[Advancing Diversity in Technology | CES 2015]
テクノロジ業界の「職場の多様性」(ダイバーシティ)促進のために、今後5年間で3億ドルの資金を投じていく……。
Intelが今月はじめ、CES 2015の会期中にそんな計画を発表していた。ところが、おそらくさまざまな新製品や技術の発表に追い立てられて手が回らなかったのか、この話題を取り上げた日本語の報道が思った以上に少ない。今(1月22日時点)検索してみても、下記のCNET Japanの記事のほかは1つ、2つしかヒットしない。
この取り組みのニュースはもっと注目を浴びていい。そう思える主な理由は次の3つ。
- 1)自腹を切ってこそ(覚悟のほどが示せる)
- 2)機会があってこそ(力を示せる)
- 3)異なる目線だからこそ(新しい発想をすばやく形にできる)
以降でそれぞれについて少し説明する。
1)「自腹を切ってこそ」
シリコンバレー関連のニュースでダイバーシティの問題が目立ってきたのは、おそらく一昨年あたりのことだったと思う。昨年にはGoogle、Facebook、Apple、Amazon、Microsoft、Intel、Yahoo!といった大手各社、それにAirbnbやPinterestあたりの基礎ができたベンチャー企業からも、この話題に関する報告が公表されていた。
[Apple - Diversity - Inclusion inspires innovation]
細かい数字の違いは別にして、各社にほぼ共通しているのは、白人やアジア系の男性の割合が多く、その分女性やヒスパニック系、アフリカ系の比率が少ないという傾向。また経営トップに近づけば近づくほどこの傾向が著しくなる点もほぼ同じ。
例えば、Facebookのレポートを中心に書かれた下記のRe/code記事中には、「Facebookの場合、米国従業員の9割以上が白人もしくはアジア系。女性の割合は世界全体でも約3割」「(すでにレポートを発表していた)GoogleやYahoo!にしても似たようなもので、女性の割合はGoogleで約30%、Marissa Mayerがトップを務めるYahoo!でさえ37%」「技術職の場合は女性の比率がさらに下がり、Facebookで15%、Googleでも17%たらず」「Facebookの場合、上級管理職(Senior Staff)ではヒスパニック系が4%、アフリカ系が2%」などと書かれてある。
こうした「ある種の歪み」をただし、人口構成の割合にできるだけ近づけよう、というのがダイバーシティの取り組みの概要で、かつて民主党の大統領候補にもなったRev. Jesse L. Jackson Sr氏が代表を務める「Rainbow Coalition」という団体の名前がよくニュースに出てきたりもする。
つまり、この動きの対象となっているのは、男女差別だけもなければ人種や性的志向の違いによる差別だけでもないということだ。
The Vergeの報道によると、Intelの最高経営責任者(CEO)を務めるBrian Krzanich氏は今回の計画発表の中で、「この問題の改善・解決に向けて具体的に動き出すべき時が来ている。『私たちはダイバーシティを重んじます』と言っているだけではもう済まされない」("It's time to step up and do more. It's not good enough to say we value diversity,")などと発言していたという。
確かに、これまで具体的な金額と期限を示して何らかの対策を打つ、という企業の話は聞いたことがなかったから、それだけIntelの覚悟――「自腹を切ってなんとかする」という覚悟は画期的に思える。
さらに、Intelがこの3億ドルの一部を社外での技術系人材の育成――技術系の分野を専攻する学生への奨学金などにも振り向ける、としている点も目を引く。これは、長期的な視点に立ったある種の「種まき」で自社の利益に直接つながらないことにもお金を出す、ということだろう。
別に「多額の資金を投じるから偉い」というつもりはないが、自腹を切るのは覚悟のほどを具体的に示すひとつの手立て。そう考えれば、このIntelの計画はもっと注目を浴びていいと思う。