2014年の中間選挙の影響などから、しばらく動きの見られなかった米国の法人税改革をめぐる議論が、ここに来てようやく活発化し始めたようだ。Bloombergなどでは先週半ばから、これに関連するいくつかの動きが伝えられていた。
今回は、ポイントとなりそうな数字をいくつか紹介する。

2兆ドルの滞留金--10年で5060億ドルの潜在的税収
まず、Obama政権が米国時間2月2日夜に2016年度の予算案を発表し、それにあわせて法人税改革の施策も明らかにしている。
具体的には、米国の多国籍企業が国外で上げる利益に対して、最低でも19%の税金を課すこと、既存の海外滞留金については一律14%の税金支払いを求めることが盛り込まれている。それぞれの施策が実現した場合に見込まれる税収は、今後10年間で前者が2380億ドル、後者が2680億ドルなどとなっている(Bloomberg Intelligenceのアナリストによる試算)。
後者の元になる海外滞留金――AppleやGoogleなどをはじめとする米国企業が、税金支払い回避のために国外に留め置いている利益の合計額は現在約2兆ドル。
Bloomberg記事では、代表例としてGeneral Electric(GE)が2013年末時点で1100億ドル、Microsoftが2014年6月末時点929億ドル、大手製薬メーカーPfizerが2013年末時点で690億ドルといった金額が紹介されている。別のBloomberg記事には、「Microsoftが米国外に寝かせてある929億ドルを現在の仕組みで国内に持ち込むと296億ドル(税率31.9%)の税金が発生する計算」といった記述もある。
5060億ドルを単純に10等分すると506億ドル、それに対して2016年度の予算案は総額で3兆9900億ドルだから、全体の1.2%くらいの費用をこの税収増で賄えるとの皮算用も可能かもしれない。また、この予算案には2016年度の歳入不足について4740億ドル(米国内総生産=GDPの約2.5%)という数字も出ているので、この赤字額を分母に考えると、年間506億ドルという増収見込額の大きさが一層際立つかもしれない。
それとは別に、Appleの過去1年間の売り上げが合計でざっと2000億ドル――2014年第2四半期で456億ドル、2014年第3四半期で374億ドル、2014年第4四半期で421億ドル、2015年第1四半期で746億ドルで合計1997億ドル――だから、5060億ドルという金額はその2.5年分という比較のしかたもありそうだ。
この場合の税金――いわゆる「Repatriation Tax」については、かなり前に記していた通り、米国を本拠地とする多国籍企業が国外で上げた利益を国内に持ち込もうとするとかかってくる税金のこと。
具体的には、米国の法人税(これまでは、名目法人税率35%)と各営業地域(国や地域)の税率との差分にかかるもので、たとえば、ある会社がアイルランド法人で1万ドルの利益を上げ、それに対して12.5%の法人税を現地で支払ったとした場合、残りの8750ドルを米国に持ち込むのに22.5%の税金がかかる(持ち込める正味の金額は6500ドル)ということだと思う。