三国大洋のスクラップブック

海外滞留金2兆ドルの行方--米法人税改革に向けた議論が再始動 - (page 2)

三国大洋

2015-02-04 07:00

 Bloomberg記事には「現行の税制だと、海外の営業拠点がある国や地域と、米国とで二重に課税されることになる(だから米国内には利益を持ち込みづらい)」といったGE関係者のコメントが紹介されている。

 多少大雑把な基準でもシンプルな数字(税率)を示した方が税金は計算しやすい、つまり政府としては取りやすくなる。そして利益を国外に留め置いても米国内に持ち込んでも、かかる税金がさほど変わらないのであれば、企業側としては利益を米国内に持ち込んで自由に使えた方がいい。Obama政権のこの提案が、企業へのそうした動機付けを狙った施策だろう。

 ただ「19%という税率では企業が利益を米国外に逃がす動きが止まらないのではないか」という指摘もBloomberg記事にはみれらる。ここで考えられる可能性はふたつある。

 ひとつは、よしんば共和党が望んでいる25%の法人税率(現行の35%からの税率引き下げ)が通ったとしても、それと19%との差分にあたる6%未満に国外での実効税率を押さえ込めれば、そちらの方が企業にとっては得になる、というもの(米政府にとっては「25%取れるところを19%しか取れなければ、それだけ損」という考え方もあるかもしれない)。法人税率の引き下げについては、米政権側では製造業が25%、その他の企業は28%という引き下げ案を示している。

 もうひとつ、もっとわかりやすいのは、Appleがすでに何度かやってきているように、巨額の利益をため込んだまま、債券発行などで借り入れをする(利益を米国内に持ち込む場合よりも安いコストで資金を調達する)というもの。これだと、たとえば法人税が低い国(よく挙がるのは、アイルランドやルクセンブルグなど)に登記した法人(子会社)でどんどん利益を積み上げるというやり方を取った方が、わざわざ米国内に利益を持ち込むよりも断然得になる。

 米国時間2月2日には、Appleが新たな社債発行(この2年間で4度目)で65億ドルの資金を調達したというニュースも流れていた。同社の2013年4月以降の社債発行額は、これでに合計390億ドルになったという。

 この利回り――Appleにとって資金調達コスト――は一番期間の短い5年債で1.55%、一番長い30年債でも3.45%となっている。この債券発行に際してある種の基準として使われた米国債の利回りも大きく上昇した、などという記事も出ていて、Apple(のため込んだ利益の影響力)の大きさが改めて感じ取れる。

税率6.5%のタックスホリデー案も浮上

 Obama政権による今回の提案には、いわゆる“タックスインバージョン(tax inversion)”封じ込めを狙った施策も含まれるという。インバージョンというのは、簡単にいうと米国を主な営業拠点とする米企業が節税=租税回避のために登記上の本社を米国外に移すことを指したもの。

 Wikipediaの項目をみると、「2014年に浮上した大手製薬会社2社――米Pfizerと英AstraZenecaとの合併話が浮上した際に大きな注目が集まった」云々との記述もある。結局ご破算になった、この合併では、買収する側のPfizerが買収完了後に税率の低い英国に本社を移す、というものだったかと思う。

 このObama政権案のニュースに先だって、米国時間1月30日には「税率6.5%でタックスホリデーを再び導入しよう」との内容の超党派の議案が出たという話も伝えられていた。こちらの起案者は民主党のBarbara Boxer上院議員(カリフォルニア州選出)と共和党のRand Paul上院議員(ケンタッキー州選出)。

 Rand PaulといえばTea Partyの支持を集める大物で、しばらく前に元フロリダ州知事のJeff Bushが出馬の考えを明かすまで2016年の共和党大統領候補の最右翼などとも言われていた議員。そんな議員がどうしてこの議論に首を突っ込んできたのかは定かでない(Boxerの場合は選挙区にシリコンバレーも含まれる、といった説明がある)。

 いずれにしても一定期間に限り、低い税率で利益を国内に持ち込めるようにするという措置である「タックスホリデー」といえば2004~2005年に一度導入され、「悪しき前例を作った」などとさんざんな評判だったもの。今回もさっそく共和党の大物議員Orrin Hatch(上院財政委員会委員長)から「悪い政策」と批判を受けたという。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ZDNET Japan クイックポール

注目している大規模言語モデル(LLM)を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズ・コンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]