今のMicrosoftの動きにはNadalla氏という名前と方向付けが色濃く反映されているが、同氏はBallmer氏から多くのものを引き継いでいる。Nadella氏の受けている追い風は、Ballmer氏がCEOの座を退いたという事実に起因しているだけではないのだ。
Ballmer氏の在任中にMicrosoftの株価が大きく下落した理由は、ドットコムブームの終わりとAppleの興隆だ(同氏が2013年の後半に述べたように、Microsoftの当時の株価は同氏のCEO就任時に比べると60%低下していたが、利益は3倍にもなっていた)。
また、「Zune」や「KIN」、Dangerの買収といった話題しかなかったわけではない。「Microsoft SQL Server」や「Microsoft Azure」「Lync」「Skype」「Xbox」という話題もあったはずだ。実際のところ、失策の数よりも功績の数の方が上回っている。
もちろんBallmer氏も失敗や過ちをおかしている。それはどのようなCEOでも同じだ(Nadella氏も「Grace Hopper」カンファレンスで多様性の問題に関して失言し、謝罪したことを思い出してほしい)。しかし、人々はMicrosoftに対して負の感情を抱きがちであるため、Ballmer氏が話題に上ると、風刺の対象にしてしまうのだ。実際の業界人としての同氏は、さまざまな顔を持ったまったく異なる人物と言ってよいだろう。
しばしば人は同氏のことを、文字通り飛び跳ねるほど情熱的であり、従業員の持っている「iPhone」を叩き壊しかねない、絵に描いたような営業マンだと捉えている。確かにそれはBallmer氏がいつでも演じられるように準備している1つの役割であった。場合によっては十八番と言ってもよいだろう。
Microsoftはウェブ開発者やオープンソースコミュニティーからの信頼を取り戻すために2006年から「MIX」カンファレンスを開催している。そして2008年の「MIX08」において、Ballmer氏はApple関係の古くからの専門家であり、元祖MacエバンジェリストでもあるGuy Kawasaki氏と壇上で対話している。
その対話の内容は多岐にわたる細かいものであり、話題に一切制約を設けないオープンなQ&Aセッションもあった。しかし聴衆が求めていたのは「Mr. Monkey Boy」(ミスターモンキーボーイ)ことBallmer氏が「ウェブデベロッパー、ウェブデベロッパー、ウェブデベロッパー」と叫ぶ姿であった。そして、同氏はその要求に応えたのだった。
この要求の元となった動画、すなわち汗をしたたらせて踊りながら「デベロッパー、デベロッパー、デベロッパー」と連呼するという、同氏を道化役として一般に知らしめた動画には裏話がある。当時、同氏は38.9度の熱があったものの、それを押して「Microsoft Windows」のミーティングに参加していたのだ。そして、その後はすぐにベッドに直行したのだという。まさに「Sales Ballmer」(セールスのBallmer)と呼ばれるにふさわしい逸話であり、ラグビーのコーチがタッチラインから大声で檄を飛ばしているかのような感じである。