3億7800万--この数字は2013年において全世界でサイバー犯罪の被害者となった人数である(出典: 2013年シマンテック調査)。現在、世界のインターネット人口は30億人以上と言われているが、少なくとも10人にひとりはサイバー犯罪の被害に遭っている計算になる。
今や、世界のどこにいてもインターネットにつながっているだけで犯罪の被害者となる可能性がある。その中でも目立って犯罪者が暗躍する場所がインターネットバンキングに代表される金融の世界だ。
本連載では、世界と日本の金融機関に対するハッキングの現状と各国の対策を紹介しながら、現在、そして将来に渡って金融機関のセキュリティを担保する最善策を検討していきたい。
残念ながら現在、金融業界のみならず日本という国は非常に攻撃者たちのターゲットになりやすい状況にある。この現状を改善し、金融機関もそれを利用する人々も安心して取引が可能な社会へと近づけていくために、セキュリティベンダーの立場だからこそ提案できることを申し上げていきたい。
第1回目となる本稿では、まずインターネットバンキングにおける国内外のハッキングおよびその被害について、その現状を紹介する。
日本における被害状況
2013年のシマンテックのレポートによれば、日本では年間400万人がサイバー犯罪の被害に遭っているという。これは10秒に1人、1日あたりでいえば1万人を超える被害が発生している計算になる。被害総額は約1000億円にも上り、これらの金額がアンダーグラウンドに流れこむことを考えれば、サイバー犯罪がいかに社会的に大きな問題であるかがわかる。
では具体的にどんなサイバー犯罪が発生しているのだろうか。2014年の警視庁のレポートによれば2013年春からインターネットバンキングによる不正送金が急激に増加し、2014年上半期の被害額は18億5200万円に達している。
2013年の被害額は過去最大の14億600万円であったが、たった半年でその最大記録を塗り替えたことになる。また不正送金の増加に伴って、標的型メールの攻撃も増えており、2014年上半期では、警察が把握しただけで216件を確認できたという。
インターネットバンキングにおける不正送金が急激に増えている背景には、金融機関を狙い撃ちしたオンライン銀行詐欺ツールのまん延が大きな要因として存在する。トレンドマイクロの調査によれば、国内のネットバンキングで検出された詐欺ツール感染PCの数は、2014年4~6月の間で2万台を超えており、これは米国を抜いて世界第1位というあまりありがたくない称号を得てしまった。
この数は、あくまでもトレンドマイクロが検知できたマルウェアに感染したPCの数であり、新しく発生したばかりのマルウェア、つまり検知できないマルウェアによる感染は含まれていないことを考えると、氷山の一角にすぎない。
急速に拡大するインターネットバンキングの詐欺被害の重要性を鑑み、金融庁は2014年7月、ネットバンキングの法人被害も金融機関が負担するようにとの監督し指針を出す。これにより、国内金融機関はネットバンキングの安全性を担保するための喫緊の対応を迫られることになる。
ここで覚えておいてほしいのは、金融機関に限らず、日本という国、そして日本人がもつ資産が世界中から狙われているという事実だ。JALマイレージバンクやANAマイレージクラブへの不正ログイン、ニコニコ動画を運営するドワンゴへのアカウントハッキング、LINEのアカウント乗っ取りなど、2014年にはこれまでにないほど多くの企業の情報漏洩やハッキングが事件として大きく取り扱われた。
ネットバンキングだけでなく、日本のネットサービスも標的になり、ポイントを不正に使用されたり、ギフトカードへ不正に換算されたりした。日本はいま、間違いなく世界の攻撃者にとって格好のターゲットになりつつあるのだ。