こうした流れで考えると、DevOpsの重要性が明確になってくる。顧客との接点がデジタル化されてきており、顧客にいかに買ってもらうかまでもが企業ITに求められている。ITを使って顧客が知りたいと思う製品やサービスの情報を提供したり、顧客が思いも付かなかった利便性などを提案したりすることが重要になっている。
ここで問われるのが、モバイルアプリやウェブで提供する機能やサービスなどのカイゼンのサイクルを早めることだ。
企業が提供する製品やサービスに対する評価はTwitterやFacebookで瞬く間に伝播する。「こんなモバイルアプリが欲しかった」「ECサイトで商品を買ったが、ユーザーインターフェースが悪く、欲しい商品を見付けづらかった」「もっとわかりやすいナビゲーションにしてほしい」などの評価を読んだことも多いだろう(この種のコメントはアプリストアにも掲載されている)。これをカイゼンし続ける上で必要なのがDevOpsだ。
「ビジネスの環境変化のスピードが速くなっており、顧客満足度を上げるためにはDevOpsが向いている」(長嶋氏)
DevOpsのメリットを提言したのがFlickrのエンジニアであることから、DevOpsが得意とするのはウェブの領域に限定されると思われるかもしれない。
だが、これまでをみて分かる通り、DevOpsはウェブ領域に限定されるものではなく、モバイルアプリなどの顧客とのタッチポイントの領域こそ、その真価を発揮できると言える。“DevOpsはお金を稼ぐための手段”は言い過ぎではないはずだ。
金融や製造でも取り組み
DevOpsを中心テーマに据えた書籍『The DevOps 逆転だ! 究極の継続的デリバリー』(原題『The Phoenix Project』)が2014年8月から日本でも出版されている。この単行本は、従業員3000人規模の自動車部品を製造、販売する企業が舞台となっている。
ストーリーは、店頭小売りとネット通販を統合する新システム「Phoenix」を3カ月以内にリリースしなければ、IT部門をアウトソーシングすると上層部から告げられることから始まる。このプロジェクトを完遂するために出てくるのがDevOpsという筋立てだ。
執筆者の1人であるGene Kim氏は、2014年11月に開催された、DevOpsをテーマにした講演に登壇した。講演の中で、Kim氏はDevOpsに取り組んでいる企業としてさまざまな米国企業を挙げた。
GoogleやAmazon、NetFlix、Spotify、Twitter、Facebookなどのネット系企業はもちろん、GE CapitalやNationwide、BNP Paribasなどの金融業、GapやNordStrom、Macy's、Targetなどの小売業が挙げられている。製造業ではGeneral MotorsやNorthrop Grumman、Lego、Boscheなども取り組んでいる。個人と直に接するネット系や金融、小売りだけではなく、製造業もDevOpsに取り組んでいるのが興味深いところだ。
「より速く、より安く」という目的が大本にあるのがDevOpsだ。その取り組み方は企業のビジネスモデル、製品やサービスの違いなどでさまざまな方法がある。それだけにDevOpsをどのように適用するかは「企業ごとにフォーカスが異なる。DevOpsが向くサービスとそうではないサービスがある」(長嶋氏)。DevOpsを考える上で忘れてはいけないのは、「より速く、より安く」というスピードの向上だ。