「データより見識に頼る」現状は変わるか--医療でのビッグデータ活用

Mary Shacklett (Special to TechRepublic) 翻訳校正: 川村インターナショナル 2015年02月23日 06時30分

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 スタンフォード大学は、大学や病院、政府、産業界の医学研究者を対象としたカンファレンス「Big Data in Biomedicine Conference」を米国時間5月20日から22日に開催する。目的は、医療分野でビッグデータを活用するために、共同研究を促進し、課題に対処するとともに、実施可能な対策を見つけ出すことだ。

 奨励策は数多くある。ペタバイト規模のデータを処理する大規模な科学計算プロジェクトにせよ、従来は達成不可能だった結果に到達するために新たな方法でデータの確認や分析を行う、より日常的な取り組みにせよ、さまざまな方法を通して、医学は臨床での課題にビッグデータやアナリティクスを応用する方向に進みつつある。

 例えば、スタンフォード大学ルシール・パッカード小児病院では2011年に、ネバダ州リノの少女がヘリコプターで運ばれてきて、集中治療室に入れられた。この少女は全身性エリテマトーデスにかかっていた。これは、体の健康な組織を攻撃し、永続的な腎臓障害を引き起こすことのある病気だ。学際的な医師のチームは、血液の濃度を下げ、血栓を防ぐことのできる抗凝固薬を用いるリスクと、複雑な手術や、脳卒中の発生、臓器内への出血といった逆のリスクとを比較検討する必要があった。チームはデータを必要としていた。

 若手医師のJennifer Frankovich氏は、自らが作成に関わっていた、全身性エリテマトーデス患者の子どものデータベースを用いるという方法を取った。このデータベース作成作業の一環として、図表をデジタル化したり、データをキーワードで検索可能にしたりする作業が行われていた。データベース検索によって、Frankovich医師は、同病院で過去に治療したあらゆる小児の全身性エリテマトーデス患者のうち、血栓ができたのは何人で、リスク係数はどのくらいかを調べることができた。そこから、現在の患者の血栓形成のリスクについて、抗凝固薬を処方するリスクを取ることが正当なのかどうかを計算することができた。この計算では、そのリスクを取るだけの価値はあることが示されたため、この患者は抗凝固薬を投与された。その結果、すぐに改善の兆候が見られた。

 起業家で、スタンフォード医学部小児科学准教授のAtul Butte氏は、Frankovich氏の仕事を、医学の世界で起こりつつある「劇的な変化」になぞらえている。「つまり、科学的手法自体が時代遅れになりつつある」(Butte氏)

 医学分野で何十年前もから存在し、現在も使用されている科学的手法は、高い評価を受けた、さまざまな医学分野の専門家のチームが互いに意見を出し合い、その患者の治療の選択肢や成果について自分たちの経験を寄せ集め、共有することからなる。特殊な状況やリスクが生じるケースでは、この科学的手法で必要となる医学文献や経験的証拠が欠けていることが多い。これこそ、スタンフォード大学の全身性エリテマトーデスのケースで起こったことであり、Frankovich医師がデータからの洞察によってその空白を埋めることができた場面である。

 しかし、話はこれで終わりではない。

 同病院の経営層は依然として、緊急のケースでは、過去の成功例に関するデータを見つけるために診療記録を検索するよりも、医師チームの見識を信頼する方が安全だと感じている。2015年1月に行われたNPRのインタビューで、Frankovich医師はそのことを認め、「データ分析は複雑であり、特別な専門知識を必要とする。検索エンジンにバグがあったり、記録の転記に誤りがあったりしたらどうなるだろうか。エラーが起こる余地はあまりにも多い。そうしたデータを解釈するためにはシステムが必要になるが、それはまだ実現していない」と述べている。

 ここで、2015年春にスタンフォード大学で開催されるビッグデータカンファレンスに話が戻る。このカンファレンスの告知には、次のように書かれている。「他の業界では、ビッグデータの大規模な統合と分析による価値の利用ではるかに大きな成功を収めているのに、医療分野はようやく取りかかろうとしているところだ。もちろん、サービス提供者も、それを購入する側も、変化しつつある医療環境をより良く理解できるように分析関連の機能への投資を増やしつつあるが、それはまだ初期段階にある」

 確かにその通りだが、クリーブランドクリニックのような医療の現場では、医師や開業医師が以前から、病気の診断と治療法の決定にビッグデータとアナリティクスを利用している。アナリティクスの結果はそのまま、学際的な医師チームが患者について検討する際の議論に用いられる。そして、データの品質や医療との統合の問題は引き続き残っているものの、医学分野で従来用いられてきた科学的手法の見直しが始まっていることは間違いない。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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