「巨大なレガシーシステムの刷新が迫っている」。NTTデータで技術開発本部ソフトウェア工学推進センタ長を務める冨安寛氏は、地方自治体を含めた大規模レガシーシステムへの対応に危機感を募らせている。大手システムインテグレータ(SIer)を頂点とする伝統的なシステム開発方法で、レガシーシステムを近代化(モダイナイゼーション)させるのが難しいからだ。
下請け構造の見直しへ
冨安氏によると、開発費100億円を超す巨大なレガシーシステムは、NTTデータ1社で50件ほどある。富士通やNEC、日立製作所など大手が開発に携わったものを含めれば、100件をはるかに超すだろう。そんな膨大な資産を抱える巨大レガシーシステムの刷新が、この10数年の間に訪れるというのに、最適な解決策を見つけるのはこれからになる。残された時間は少ない。
巨大レガシーシステムとは、顧客ごとに一から作り込み、開発に携わった技術者にしか中身が分からないもの。典型的なのが、設計書を作成した人に、それを基にプログラムをする人が分からない部分を、個別に聞きながら開発を進めた結果、設計書に記載されていないことがあちこちに盛り込まれる。
追加や修正、改良するには、いわば行間を読まなければできないので、作った技術者らが退職したら、「なぜ、こうなっているのか」と不明な部分が多くあって、容易に手を入れられない。
多くは、メインフレーム上で稼働している。2000年問題などでオープンシステムに移行したものもあるが、開発予算の抑制から抜本的な刷新を先送りしたケースが少なくないという。「この秘伝のタレに、どのように最新技術を取り込むのかが問題」(冨安センタ長)。復元するリバースエンジニアリングや開発の自動化など以上に、どの最新技術を適用するかの選択が難しいという。
加えて、開発スピードを上げるうえで、「2次受け、3次受けという、のんびりした仕組み」(冨永センタ長)を改める必要がある。IT産業の構造問題でもある。
一方、開発の自動化ツールはそろってきており、NTTデータも適用させる案件を増やしている。「さまざまな前提条件のある机上の話だが、40%の生産性を向上できる」(冨安センタ長)ところまできた。技術者の仕事の多くを人手から機械に任せることで、俗人的な方法を排除するわけだ。
「話し合ったことを、機械に分かるようにする」(冨安センター長)。設計から開発、テスト、運用までを一気通貫で流せるようにもする。さらに組織のあり方、技術者の意識改革も図る。“家内制手工業”など伝統的な開発方法にこだわる技術者が新しい環境への移行を妨げることもあるからだ。